序列で席順が決められている席の端にふと目をやると、見知らぬ男の姿が。 順番からいくと、あの席は真里亞の父親の場所だ。 不思議に思い、戦人は亜弥に話し掛けた。
「なぁ亜弥、秀吉おじさんの隣にいる人は誰だ?真里亞の父親さんじゃねぇよな?」
「…ええ、あの方は真里亞のお父様じゃないわ。あの方は、お祖父様の主治医の南條先生」
「…親族会議に、お医者の先生ねぇ…」
南條の存在に、金蔵の余命と遺産が会議の議題であることに気づいた。
「うー!」
ひょいっと真里亞が料理をフォークにさして、戦人に差し出した。
「これおいしい!戦人も食べる!う〜!!」
可愛らしい笑顔でそう言う真里亞に、戦人も自然と笑みを浮かべていた。
「じゃあ、俺のと取り替えっこだな。ほらよ!」
「うー!」
自分の料理をスプーンに乗せて、真里亞に差し出す。 真里亞はそれを喜んで口にした。
「うー!」
「いっひっひ〜、美味いか〜?」
「うーっ!亜弥も食べる!」
「わあ、ありがとう」
「うー!!」
亜弥が食べたことで、真里亞は上機嫌になる。 戦人は羨ましげにその光景を見ていた。
「それにしても本当に美味いな、このランチ。前菜からメインまで絶品だぜ」
「お褒め頂き光栄でございます、戦人様」
「!?」
後ろから声がし、振り向くとがたいのいい大柄な男が立っていた。
「使用人の郷田さん。今日のランチは、郷田さんが担当なの」
亜弥の説明後、郷田は戦人に頭を下げた。
「一昨年前からお勤めさせて頂いております。郷田です」
「でっけぇ人だなぁ!料理人っていうより、ボディーガードみたいだぜ」
「見かけによらず、仕事は繊細なんだよな」
「ありがとうございます」
朱志香がフォローを入れる。 すると亜弥は少しだけ不満そうな顔をした。
「それでは本日のデザートにうつらせて頂きます」
扉が開き、紗音と熊沢が食堂に入ってきた。
「皆様にお気に入り頂けるよう、趣向をこらして仕上げてみました」
紗音はガラガラ…と料理を乗せたカートを引いていく。
「お!紗音ちゃんじゃねーか」
紗音は丁寧に配膳をしていく。
「ど…どうぞ…」
「可愛い子が配膳してくれると、デザートが一層美味そうに思えるよな!サンキュー!」
「あの…いえ…、どうも…」
戦人のほめ言葉に、紗音は顔を赤くさせた。
そして、配膳も全て終わり。 瞳をキラキラさせてデザートを見ていた真里亞は、勢いよくそれを口に運んだ。
「う!!戦人、このソース酸っぱい!こっちのハズレ!」
「何ぃ?ソースにアタリとハズレがあるのかよ?」
「こ、こっちのも酸っぱい…」
「亜弥のもかよ!?」
驚きながらも、戦人は紗音にデザートについて尋ねる。
「紗音ちゃん、この2色のソースは何のソースだい?」
「え…。あ…あの…、えっと……」
どうやら分からないらしく、紗音は戸惑う。 そんな紗音を見て、絵羽はうっすらと笑みを浮かべた。
「あらあら…、じゃあこっちの紅茶の銘柄は分かるぅ?」
「…あの…、……いえ。申し訳ございません。後ほど調べて参ります…」
紗音の答えに、絵羽は予想通りといったようにさらに笑みを深める。 そして言葉を続けようとした。 が、そのとき… ガシャーンと何かが砕ける音がした。 一同は、音のした方を見る。 そこにはスカートを濡らした亜弥の姿が。 そして床には、先ほど配られた紅茶のカップの残骸があった。
それを見た夏妃は慌てて立ち上がり、亜弥の方へと駆け寄った。
「亜弥っ大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい、お母様…。食事中に大きな音を立ててしまって…」
「そんなことはどうでもいいのです!火傷をしてしまったかもしれません、すぐに冷やさなければ…」
「では水で冷やしてきます。それから、着替えも…」
「分かりました。紗音、コップを片付けなさい」
「は、はい…!」
紗音は急いで箒とちりとりを取りに行く。 亜弥は席から立ち上がると、食堂を後にした。
戦人は内心驚きを隠せないでいた。 見てしまったのだ。 亜弥がワザとコップを落としたのを。 亜弥は昔とちっとも変わっていない。 そう思っていたのは、間違いだったのか。
やはり6年という月日は、とても長かったようだ。
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