「さて…、今回は久しぶりに我が家を訪れた戦人くんが主賓だ。ゆっくりしていきたまえ」

「…はぁ」


戦人は、蔵臼が少し苦手だ。
いつも偉ぶっているためだろう。

戦人が苦笑いをすると、今度は絵羽が話し掛けてきた。


「本当に戦人くんは6年経って見違えたわよぅ」


彼女は譲治の母親で、お気に入りはというと…


「亜弥ちゃんも大人っぽくなって。本当、譲治の婚約者になって欲しいわぁ」

「か、母さんっ」

「いいじゃない、いとこ同士は結婚だってできるのよぅ」


ね、どう?と亜弥に尋ねる。
どうやら本気のようだ。


「ごめんなさい、おば様」

「…そぅ、残念ねぇ」


心底残念そうにする絵羽に、留弗夫はにやっと笑みを浮かべた。

「仕方ねぇよ姉貴。亜弥ちゃんはうちの戦人のだからよ」

「ぶっ!」


自分の父親のいきなりの発言に、戦人は思わず飲んでいた水を口から吐き出す。
ほんの少しだったため、被害がでなかった。
戦人はほっと胸を撫で下ろした。


「戦人お兄様、大丈夫?」

「あ、ああ…」


心配そうに見つめてくる亜弥に、頬が熱くなるのを感じた。


「でも、結局のところどうなのかしら?」


真里亞の母、楼座はふんわりとした笑みを浮かべながらそう聞いた。


「どうって…」

「真里亞がね、亜弥ちゃんにぜひ姉になって欲しいって言ってるのよ」

「うーっ真里亞、亜弥の妹になる!それで、ずっと一緒にいるのー!」


ナイフを持ち、頬をほんのり赤くしながら真里亞はそう言った。
そんな真里亞に、亜弥は嬉しそうに微笑んだ。


昔から亜弥が親族たちの中で人気なのは、戦人も分かっていた。
けれど、まさかさらに凄まじいものになっていたとは…。

戦人は思わず苦笑する。
自分も、そのうちの一人なのだから。

ふと、横に座っている夏妃と目があった。


「戦人くんは本当にずいぶん背が伸びましたね…」

「はい!食ったり食べたり食事したりしてたらいつのまにか!」

「……そう……。戦人くんだったらよかったのに」

「え?」


戦人のギャグを完全にスルーしてポツリ、と夏妃は独り言を口にする。
戦人は聞き取れなかったのか、眉をひそめた。

そのとき、譲治の父親の秀吉が笑い出した。


「わっはっはっは!食べてばかりやないか、戦人くん!」


どうやら夏妃のスルーした戦人のギャグに反応したらしい。


「食べ過ぎは禁物や!せっかくのルックスが、ワシみたいになってまうで!そしたら別の意味で、女の子泣かせてしまうがな!」


自分のお腹をポンッと軽く叩いた。


「いっひっひ〜。気をつけます〜」


気さくな秀吉に、戦人もまた笑顔で返事をした。

その会話を聞いた霧江は、くすりと笑う。


「男の人の価値は、外見だけでは決まりませんよ?戦人くんは今年受験でしょう?そっちは大丈夫なの?」

「霧江さん、その話題はよそうぜぇ…」

「せっかく親族が集まっているんだもの。情報交換は大切よ?」


霧江は留弗夫の後妻だ。
とても知性的で、戦人には母親というよりは姉といった感じだ。


「戦人ぁ〜、たまにゃあ勉強しやがれよ」

「そうや、勉強ちゅうんは学という行為自体に意味があるんやで」

「うちの娘も今年受験でね。その話はぜひお聞かせ願いたい」


大人たちは口々に勉強に対して述べる。
朱志香は自分のことが話題に出され、喉を詰まらせかけた。


「う…うぜーぜ!」

「言葉を正しなさい、朱志香。右代宮の跡取りとして、亜弥の姉として相応しくありません」

「っ…」


亜弥の名前を出され、思わず口をつむぐ。
瞳にうっすらと涙を溜める朱志香を見、亜弥は悲しい顔をした。


「お母様、お姉様が私の姉として相応しくないなんて言わないで?」

「ご、ごめんなさいね亜弥。軽率でした」


夏妃は慌てて、先ほどの言葉を撤回する。
すると亜弥は嬉しそうに微笑んだ。


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