「不吉、不吉、不吉。
不吉、不吉、不吉……。
不吉、来る」
そう言って、真里亞は空を指差す。 みんなの表情が曇っていく。
空は晴れ晴れとしている。 台風が近付いているとニュースで言っていたようだが、不吉が来ると到底思えない。
「うー……うーうー!うーうー!!不吉来る!!うー!!」
亜弥は、何だか胸騒ぎのようなものを感じていた。
【第2話:薔薇庭園】
10月4日 10時30分─
無事、船は島に到着した。 その頃には真里亞も機嫌が直っていて。 亜弥もまた、落ち着いていた。
「…あれ?」
「どうしたの、戦人」
「いや、何か物足りねぇ気がして…」
「船に何か忘れ物したとか?」
「いや…そういうんじゃなくて、島に妙な違和感が…」
無意識に頭を掻きながら、戦人は亜弥に返事を返す。
「うー!ない!ない!ってか?」
「うー!戦人まねっこ!まねっこ!」
朱志香が茶化すように言うと、真里亞も笑顔でそれに続いた。
そんな中、戦人は違和感の原因に気がついた。
「…あ、うみねこだ…。うみねこの声がしねぇんだ…!」
そう、いつも賑やかに鳴いているうみねこがいない。 1羽や2羽ならまだしも、丸っきりである。
戦人の脳裏に、先ほどの真里亞の『不吉』という言葉が蘇った。
「うー?どうしてうみねこいない?」
「よそで集まりでもあるんじゃねーか?」
「…朱志香がみぃんな丸焼きにして食っちまったんかなぁ!」
「えぇぇえ!?」
「うー!!?」
「ブブ物騒なこと言うんじゃねぇー!亜弥と真里亞が勘違いするだろー!!」
慌てて朱志香が声を上げる。 亜弥は本気にしたようで、戦人の後ろに隠れて、怯えた目で朱志香を見ていた。
「おおお姉ちゃん、食べちゃったの?」
「そんなわけねーだろ!!」
「違うよ、亜弥ちゃん、真里亞ちゃん」
譲治は優しく2人に笑いかける。
「野鳥って天気や気圧の変化に敏感なんだそうだよ。今夜あたり天気が崩れそうだから、早めに巣へ引き上げるのかもしれないね」
持ち前の豊富な知識で、簡単に説明する。 亜弥と真里亞はなるほど、と納得した。
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