02.薔薇庭園



「不吉、不吉、不吉。

不吉、不吉、不吉……。

不吉、来る」


そう言って、真里亞は空を指差す。
みんなの表情が曇っていく。


空は晴れ晴れとしている。
台風が近付いているとニュースで言っていたようだが、不吉が来ると到底思えない。


「うー……うーうー!うーうー!!不吉来る!!うー!!」


亜弥は、何だか胸騒ぎのようなものを感じていた。



【第2話:薔薇庭園】





10月4日 10時30分─


無事、船は島に到着した。
その頃には真里亞も機嫌が直っていて。
亜弥もまた、落ち着いていた。


「…あれ?」

「どうしたの、戦人」

「いや、何か物足りねぇ気がして…」

「船に何か忘れ物したとか?」

「いや…そういうんじゃなくて、島に妙な違和感が…」


無意識に頭を掻きながら、戦人は亜弥に返事を返す。


「うー!ない!ない!ってか?」

「うー!戦人まねっこ!まねっこ!」


朱志香が茶化すように言うと、真里亞も笑顔でそれに続いた。

そんな中、戦人は違和感の原因に気がついた。


「…あ、うみねこだ…。うみねこの声がしねぇんだ…!」


そう、いつも賑やかに鳴いているうみねこがいない。
1羽や2羽ならまだしも、丸っきりである。

戦人の脳裏に、先ほどの真里亞の『不吉』という言葉が蘇った。


「うー?どうしてうみねこいない?」

「よそで集まりでもあるんじゃねーか?」

「…朱志香がみぃんな丸焼きにして食っちまったんかなぁ!」

「えぇぇえ!?」

「うー!!?」

「ブブ物騒なこと言うんじゃねぇー!亜弥と真里亞が勘違いするだろー!!」


慌てて朱志香が声を上げる。
亜弥は本気にしたようで、戦人の後ろに隠れて、怯えた目で朱志香を見ていた。


「おおお姉ちゃん、食べちゃったの?」

「そんなわけねーだろ!!」

「違うよ、亜弥ちゃん、真里亞ちゃん」


譲治は優しく2人に笑いかける。


「野鳥って天気や気圧の変化に敏感なんだそうだよ。今夜あたり天気が崩れそうだから、早めに巣へ引き上げるのかもしれないね」


持ち前の豊富な知識で、簡単に説明する。
亜弥と真里亞はなるほど、と納得した。


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