「いつまでそうしているつもりなの?」
─誰?
「本当に何もかも忘れてしまったのね…」
─何を言ってるの?
「可哀想に、あなたはきっと勝てないわ…これから始まる、終わり無き魔女のゲームに」
─魔女?ゲーム?何のこと?
「大切な人たちを失いたくないのならば、早く思い出して」
だって、 愛がなければ視えないのだから──
【第1話:終焉なき物語】
1986年 10月4日 10時00分──
毎年恒例の親族会議のため、右代宮一族は六軒島へ向かっていた。 勿論『島』なので船で、である。
「ちょっ速!落ちるぅぅぅぅうう!!」
右代宮戦人の悲鳴が辺りに響き渡った。
「まさか、6年ぶりの道中でこんな洗礼を受けるとは…」
「ば、戦人、大丈夫?」
げっそりとしている戦人に、亜弥は不安げに話し掛けた。
「ああ、大丈夫だせ!それにしても…」
ニヤニヤ顔で上から下まで亜弥を見る。
「立派になりやがってっ!」
「ひゃっ」
戦人は立ち上がると、亜弥に思い切り抱きついた。
「こぉぉおら戦人!てめぇ私の亜弥に何してやがるっ!」
「げっ朱志香」
「離れやがれ!!」
亜弥の悲鳴を聞きつけてやってきた朱志香に引きはがされた。
「別にいいじゃねーか、減るもんじゃなし」
「んな問題じゃねぇ!セクハラで訴えるぞ!」
「…っ」
物凄い形相で睨まれ、さすがに戦人もたじろぐ。
ったく、胸ばっか成長して、中身は全然変わってねーじゃねぇか!
心の中でそう毒づくと、朱志香は気づいたのか、鼻で笑った。
「戦人、お前全然変わってねーなぁ!な、亜弥っ」
「へ、あ、うん」
「なーんーだーとー…それなら、お前がどれくらい大人になったか、俺が確かめてやるっ!」
そう言って戦人は朱志香に掴み掛かる。 胸に少しだけ指がかすった瞬間、朱志香の平手打ちが見事に戦人の頭に当たった。
倒れた戦人に、亜弥は駆け寄る。
「戦人、大丈夫?」
「あ、ああ…あれ、デジャブかこれ?」
大丈夫ではなさそうである。
そんなとき、真里亞がやって来て、さすさすと戦人の頭を撫でた。
「うー、戦人へろへろ」
「真里亞か」
優しく頭を撫でてくれる真里亞が、戦人には天使に見えた。
「真里亞っこんな奴心配してやることねぇよ!亜弥に抱きつきやがったんだぜ」
「うー…戦人、ズルい!」
「いてっ」
撫でていた手を、グーに変えて戦人の頭をポコッと叩いた。 そして立ち上がると、真里亞は亜弥に抱きつく。
「うー、亜弥は真里亞のなの!戦人は触っちゃダメ!」
「ま、真里亞まで…」
キッとこちらを睨みつけてくる真里亞を前に、戦人はがくっと肩を落とす。
「ね、ねぇ、みんなで仲良くしようよ?」
「うー、亜弥がそう言うなら…」
「仕方ねぇな」
「亜弥…。さすがは俺の未来の嫁」
「今すぐ沈みやがれっ!」
「うーっ真里亞も協力する!」
朱志香は戦人を船から落とそうとする。 真里亞も戦人の背中をしきりに押す。
さすがに戦人は、自分の身を案じた。
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