14.一緒に帰ろう



絵羽の家へ訪れた次の日の正午。
ピンポーンとチャイムの音が、鳴り響いた。

見ると、絵羽は忙しそうにしていて。
そんな彼女に、亜弥は声をかけた。


「おば様、私出てきますね」

「あらぁ本当?助かるわ」


よろしくね、と言われ、早歩きで玄関へ向かい。

何のためらいもなく、扉を開いた。


「はーい、どちら様です…か?」


目の前にいる人物に、亜弥の声は小さくなっていって。
慌てて開いた扉を閉めようとした。

が、それより早く隙間に足と手を入れられ、閉めることができなかった。

思わず涙目になり、きっと相手を睨みつける。


「どうして嘉音くんがここにいるのよ?」


扉は今や、嘉音によって完全に開かれていて。
亜弥と嘉音を隔てるものは、なくなっていた。


「どうしてって…、迎えに来たんですよ」


あっけらかんと、そう答えた。
亜弥ははぁ…と息をつくと、頭に手をやった。


「よくここが分かったね」

「朱志香様が、ここにいるはずだと仰られまして」

「お姉ちゃんが?」


なるほど、と納得した。
確かに、朱志香は夏妃と絵羽の仲が悪いことを知っている。
そして、だからこそ亜弥が絵羽を頼るに違いないと考えたのだろう。

勉強面は駄目でも、こういうことには頭が回るようだ。


嘉音は、そっと手を差し伸べた。
それを亜弥は、不思議そうに見つめる。


「帰りましょう?」

「…ヤだ」


顔を背けて拒否をする。
どうやらまだ夏妃の言った言葉への怒りが消えていないようだ。

理由を一切知らない嘉音は、亜弥の態度に少しイラッとした。


「亜弥様」

「ヤだもんっぜーったいに帰らない!」


子どものように駄々をこねる。
そんな彼女に、嘉音は堪忍袋の緒が切れてしまった。


「いい加減にしてください!!」


大声で怒鳴られ、亜弥はビクッと肩を震わせる。
こんなにも怒りを露わにした嘉音は初めてだ。


「旅行だって言いましたよね?なのに本当は家出?どうして嘘をついたんですか!?」

「──っ」


悲しそうな瞳。
亜弥は胸がずきんと痛むのを感じた。


「嘉音…くん」


そっと、嘉音の手に触れる。
するとその手は嘉音によって力強く握られた。


「約束…したじゃない、ですか。傍にいさせてくれる、って」


たどたどしくも、一言一言を大切に紡いでいく。
嘉音にとって、それ程までに大きく大切な約束なのだ。


「ごめんね、嘉音くん」


亜弥は優しく、けれど力強く手を握り返した。

もう離さないようにと。


嘉音は照れくさそうに、でもどこか嬉しそうに。
そっと、亜弥を引き寄せた。


「帰りましょう、亜弥様」


うん、帰ろう。
そう、言おうとしたとき。


「何勝手なこと言っているのかしらぁ?」


いつからいたのだろう。
亜弥の後ろに、絵羽が立っていた。
それも、とても不機嫌そうに眉間を寄せて。
思わず嘉音は亜弥から手を離す。

つかつかと音を立てて歩み寄ると、絵羽は嘉音を睨みつけた。


「亜弥ちゃんはね、うちに花嫁修行に来ているのよ。将来譲治と結婚するためにね」

「え」

「そうよね、亜弥ちゃん」

「いえ、違います」


驚き目を丸くさせている嘉音の横で、亜弥はきっぱりと否定した。


「あ…ら、違ったのぅ?」

「はい」


絵羽の表情が暗くなっていく。
それとは逆に、嘉音の表情は明るくなっていって。

悔しさからなのか、絵羽は手にしていた愛用の扇子を、嘉音の目の前に向けた。


「こんなことで勝ったと思わないでちょうだい。私、これでも拳法の心得があるの。力での勝負なら負けないわぁ」


もはや話が思い切りずれているのだが、そんなことはお構いなしの様子で絵羽は嘉音に冷ややかな視線を送る。

すると嘉音も負けじと彼女を見据え、


「なら、勝負してみますか?」


あろうことか、挑発してみせた。


沈黙とともに、冷たい空気が辺りを支配する。
亜弥は2人の纏うオーラに気圧され、口を挟むことすらできなかった。

そして──
ゆっくりと絵羽は、扇子を自分の方へと向け。
バッと音を立てて開けた。


「ふふふ、嘉音くん、あなた面白いわねぇ」

「…え?」

「私の脅しに屈しないなんて…。今日のところは、このくらいにしておいてあげるわぁ」


楽しげにくすくすと笑うと、絵羽は中に戻って行った。


「一体…何だったんでしょう?」

「多分、嘉音くんの熱意が通じたんだと思う」


嬉しそうに笑みを浮かべる。
すると嘉音は、再び亜弥の手を握った。


「亜弥様…」

「嘉音、くん?」


何か言いたげな表情。
亜弥はそんな彼をじっと見つめる。


「僕は…」

「はい、亜弥ちゃん。荷物持って来たわぁ」

「あっありがとうございます!」


再び現れた絵羽に引きはがされてしまった。

にもは関わらず亜弥はというと、普通に絵羽に笑顔を向けていて。
悔しくなり、嘉音は絵羽から荷物を奪い取ると、亜弥の手を取ってスタスタと歩き出した。


「ちょっ嘉音くん!絵羽おば様、お世話になりました!」

「また来てちょうだいねー」


ぐいぐいと引っ張られながらも振り返り、掴まれていない方の手で絵羽に手を振る。

絵羽は2人の姿が見えなくなるまで、ずっと後ろ姿を眺めていた。



to be continue..


何気に嘉音、絵羽に気に入られました(笑)
ラブラブさせるはずが…、失敗しました´`;
まぁ第二章でそういう場面がたくさん出てきますので。
あ、次で第一章終わりです!
長かったなぁ…。

20090814



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