10.気付いた気持ち



最近、よく分からない感情に振り回されている気がする。

ふぅ、と溜め息と共にテーブルを拭く手を止める。

家具の僕に、感情なんて必要…ないのに。

心の中でそう口ずさむと、なんとも言えない虚無感に襲われた。


「どうかしたのかよ、嘉音くん」

「朱志香様…」


いつもの違う嘉音に戸惑いつつも、朱志香は声を掛けた。


「何か悩み事とかあるならさ、何でも聞くぜ?」

「……」


嘉音は口を閉じて、表情をほんのり暗くする。
どうやら悩んでいるようだ。

暫くの後、ゆっくりと口を開いた。


「朱志香様は、好きな方とかいらっしゃるんですか?」

「っはぁ!?」


いきなりの質問に驚き、すっとんきょんな声を上げる。
そして顔を赤くした。


「ななななんだよ、いきなり」

「いえ…気になったもので」


ぎゅっと手にしていたタオルを握りしめる。
朱志香はそんな嘉音を見て、何となく事情を悟ったらしく、表情を緩ませた。


「さては嘉音くん、恋してるんだろ?」

「…え」


ニヤニヤしている朱志香を、目を丸くして見つめる。

恋…?
この僕、が?


「そう…なんでしょうか?」


ぽつりと小さな声。
真剣に悩んでいるらしく、複雑そうな表情をしている。


朱志香はそんな嘉音の問いに、腕を組んで考える。
そして、口を開いた。


「私が見たところはな。でも嘉音くんは、認めたくないみたいだけど」

「……」


─認めたくない

朱志香の言葉がぐるぐると頭の中を回る。

仕方ないではないか、だって…


「だって…僕は、家具ですから」


家具に恋など、許されるはずがないではないか。
それにきっと相手にだって、迷惑になってしまうに違いない。

そんな思いが、嘉音を引き留めているようだ。


「ねぇ、嘉音くん。そんな言葉で自分の心を偽って、それで本当にいいのか?私にはそうは見えない。

だって嘉音くん、すごくつらそうだぜ?」

「…っ」


泣きそうになった。
朱志香様の言った言葉に、間違いがなかったから。
余計に心に響いてしまったんだ。


「もし…もしも、この感情が恋だとしたら…想うことは、許されますか?」


こんな、半端な僕でも。
想い続けたいと、願っているから。


「当たり前だろ?…でも、そう簡単に亜弥は渡さないからな」


にやりと笑みを口元に含ませる。
嘉音は頬が熱くなるのを感じた。


「な、な、な、な?」

「大丈夫か?」

「朱志香様がいきなり…その、そんなことをおっしゃるから…」


ぼそぼそと言葉を発する嘉音がおかしくて、朱志香は腹を抱えて笑い出す。
そんな朱志香に、嘉音は眉間にしわを寄せた。


「ははっ図星なんじゃん!」

「朱志香様ッ」

「わーっ嘉音くんが怒った!」


朱志香はふざけるように笑う。
不思議とそんな彼女に、嫌な感情を抱かなくて。

嘉音は普段見せない穏やかな表情をして、


「ありがとうございます、朱志香様」


そう、お礼を述べた。


「どういたしましてっ」

「ですが、朱志香様から必ず亜弥様を頂きますので」

「うわっ想うだけとか言ってたじゃねーか!」


ムッとしながら声を上げる。
嘉音は、[そうでしたか?」とおどけた。
朱志香は絶対渡さねーと、口ずさんでいる。


きっと明日から、いつもと変わらない日常が楽しく思えて。
毎日が、光り輝くだろう。
僕の隣に、亜弥様がいてくれるのならば──


このときは、まだ知らなかった。
亜弥様が、僕と朱志香様が一緒にいるのを見て、


「そっか、嘉音くんの好きな子って…お姉ちゃんだったんだ」


そんな誤解をしていたなんて。










「じゃあ私は亜弥のとこに行こっと。嘉音くんはお仕事頑張って!」

「あっずるいですよ!」

「いや、何ついて来てんの」

「亜弥様が朱志香様に襲われたら困りますから」

「えっ何、私そんな風に見られてるのかよ!?」

「……」

「無視!?って、置いてくなー!!」



to be continue..


決して嘉音×朱志香じゃありません(主張)
亜弥のことで思い悩む嘉音が、朱志香に相談しただけなんです!
でも書いてて何気に楽しかった…←
早く続き書きたいっ

20090801



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