08.忘れ物



紙袋を片手に、嘉音は顔には出さないものの、ものすごく焦っていた。


「君、どこから来たの〜?」

「名前なんて言うの?」

「困った顔しちゃって、可愛いー!」


女子生徒たちに囲まれ、嘉音はただただ口を閉ざして俯いている。

遡ること数時間前。
夏妃からの一言で全てが始まった。





「嘉音、ちょっといいですか?」

「はい、何でしょう」


庭の手入れをしていた嘉音に、夏妃は持っていた紙袋を渡した。


「これは…?」

「亜弥が忘れて行ったものです。地図も入っているので、今からそれを届けてください」

「かしこまりました」





そして、今に至る。
無事に学校にたどり着いたのはいいが、女子生徒に囲まれてしまった。
正直、こうなったのも亜弥が忘れ物をしたからで。

嘉音は未だ会えぬ亜弥に溜め息をついた。


その頃、全ての元凶である亜弥はというと。


「な、ないー!」


鞄の中を見て声を上げていた。


「ど、どうしたの?」

「うわぁぁあんっ炉華(ろっか)ー!お弁当忘れたぁあ!」

「…はあ!?」


半泣きになりながら抱きついてくる亜弥に、炉華は呆れた声を出した。


「んもー、何やってんのよ〜」

「だってぇー…」


「あっ亜弥、炉華!」


しょぼんと落ち込む亜弥を、明るい声の主が呼ぶ。
見ると、友達の來夢(らいむ)が嬉しそうな顔でこちらに駆け寄って来ていた。


「聞いてよ、ものすごーく可愛い子が、廊下にいてさっ」

「へー」

「反応薄っ!」

「今そんなのに付き合ってる暇ないの」

「炉華までぇ〜!」


興味なしという顔をする亜弥と炉華に、頬を膨らませた。
けれどこんなことで諦める來夢ではない。
亜弥の腕を掴むと、無理やり引っ張る。


「とにかくっ一回来て!」

「ちょっ痛い!分かったから、放してぇ!」


そんな二人のやりとりを見て、炉華はやれやれと溜め息をついた。


廊下に出ると、確かに女子生徒たちの群れがあって。
來夢に引っ張られながら、亜弥はそこへ向かう。


「あ、あの…」

「「きゃーっ可愛い!」」


嘉音が口を開くと、女子生徒たちが叫び出した。

何事かと、亜弥は女子生徒たちの中心を覗く。
すると、そこには見知った人物の姿が。


「嘉音くん!?」

「あ…亜弥様!」


助かったと、嘉音は亜弥を見て安堵した。


「どうしてここにいるの?」

「奥様から、これをお預かりしまして…」


亜弥の方に歩み寄り、手にしていた紙袋を渡す。
それを受け取ると、亜弥は中身を見た。


「あっお弁当だ!」


嬉しげに声を上げる亜弥に、嘉音は少し微笑した。


「きゃーっ笑ったわ!」

「可愛い〜!」

「ねぇ亜弥、知り合いなの?」


黙っていた女子たちが次々に喋り出す。
さすがに驚いて亜弥は目を丸くした。


「えっと、嘉音くんはうちの使用人で…」

「「羨ましいー!」」


周り中に飛び交う声に、亜弥と嘉音は顔を見合わせて苦笑した。





そして放課後──

亜弥は門前で自分を待ってくれている嘉音の方へ駆け寄る。


「嘉音くん、お待たせ!」

「亜弥様」


急いで来たのだろう、亜弥は息を乱している。


「大丈夫ですか?」

「うんっ大丈夫だよ!それじゃ帰ろっ」

「はい」


亜弥は嘉音に手を差し伸べる。
嘉音は一瞬戸惑うが、その手をとった。


夕日が優しく二人を照らしていた。










「あれ、亜弥がいない…」

「あっ朱志香先輩だ!」

「炉華に來夢じゃん。亜弥知らない?」

「亜弥なら、嘉音って子と帰りましたよ」

「はぁぁあ!?」

「端から見てたら恋人同士みたいにっ。手繋いでて…」

「くっそぉぉお!!」

「じぇ、朱志香先輩が壊れた…」



to be continue..


最近朱志香姉が壊れてる(爆)
これも前々から書こうと思ってた話です!
嘉音は可愛いから、きっと女子に人気なはず^^
でも嘉音は慣れてないんで戸惑うんです←
ちなみに今回登場した亜弥の友達。
気に入ってるので、また出したいです。

20090628



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -