紙袋を片手に、嘉音は顔には出さないものの、ものすごく焦っていた。
「君、どこから来たの〜?」
「名前なんて言うの?」
「困った顔しちゃって、可愛いー!」
女子生徒たちに囲まれ、嘉音はただただ口を閉ざして俯いている。
遡ること数時間前。 夏妃からの一言で全てが始まった。
「嘉音、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう」
庭の手入れをしていた嘉音に、夏妃は持っていた紙袋を渡した。
「これは…?」
「亜弥が忘れて行ったものです。地図も入っているので、今からそれを届けてください」
「かしこまりました」
そして、今に至る。 無事に学校にたどり着いたのはいいが、女子生徒に囲まれてしまった。 正直、こうなったのも亜弥が忘れ物をしたからで。
嘉音は未だ会えぬ亜弥に溜め息をついた。
その頃、全ての元凶である亜弥はというと。
「な、ないー!」
鞄の中を見て声を上げていた。
「ど、どうしたの?」
「うわぁぁあんっ炉華(ろっか)ー!お弁当忘れたぁあ!」
「…はあ!?」
半泣きになりながら抱きついてくる亜弥に、炉華は呆れた声を出した。
「んもー、何やってんのよ〜」
「だってぇー…」
「あっ亜弥、炉華!」
しょぼんと落ち込む亜弥を、明るい声の主が呼ぶ。 見ると、友達の來夢(らいむ)が嬉しそうな顔でこちらに駆け寄って来ていた。
「聞いてよ、ものすごーく可愛い子が、廊下にいてさっ」
「へー」
「反応薄っ!」
「今そんなのに付き合ってる暇ないの」
「炉華までぇ〜!」
興味なしという顔をする亜弥と炉華に、頬を膨らませた。 けれどこんなことで諦める來夢ではない。 亜弥の腕を掴むと、無理やり引っ張る。
「とにかくっ一回来て!」
「ちょっ痛い!分かったから、放してぇ!」
そんな二人のやりとりを見て、炉華はやれやれと溜め息をついた。
廊下に出ると、確かに女子生徒たちの群れがあって。 來夢に引っ張られながら、亜弥はそこへ向かう。
「あ、あの…」
「「きゃーっ可愛い!」」
嘉音が口を開くと、女子生徒たちが叫び出した。
何事かと、亜弥は女子生徒たちの中心を覗く。 すると、そこには見知った人物の姿が。
「嘉音くん!?」
「あ…亜弥様!」
助かったと、嘉音は亜弥を見て安堵した。
「どうしてここにいるの?」
「奥様から、これをお預かりしまして…」
亜弥の方に歩み寄り、手にしていた紙袋を渡す。 それを受け取ると、亜弥は中身を見た。
「あっお弁当だ!」
嬉しげに声を上げる亜弥に、嘉音は少し微笑した。
「きゃーっ笑ったわ!」
「可愛い〜!」
「ねぇ亜弥、知り合いなの?」
黙っていた女子たちが次々に喋り出す。 さすがに驚いて亜弥は目を丸くした。
「えっと、嘉音くんはうちの使用人で…」
「「羨ましいー!」」
周り中に飛び交う声に、亜弥と嘉音は顔を見合わせて苦笑した。
そして放課後──
亜弥は門前で自分を待ってくれている嘉音の方へ駆け寄る。
「嘉音くん、お待たせ!」
「亜弥様」
急いで来たのだろう、亜弥は息を乱している。
「大丈夫ですか?」
「うんっ大丈夫だよ!それじゃ帰ろっ」
「はい」
亜弥は嘉音に手を差し伸べる。 嘉音は一瞬戸惑うが、その手をとった。
夕日が優しく二人を照らしていた。
「あれ、亜弥がいない…」
「あっ朱志香先輩だ!」
「炉華に來夢じゃん。亜弥知らない?」
「亜弥なら、嘉音って子と帰りましたよ」
「はぁぁあ!?」
「端から見てたら恋人同士みたいにっ。手繋いでて…」
「くっそぉぉお!!」
「じぇ、朱志香先輩が壊れた…」
to be continue..
最近朱志香姉が壊れてる(爆) これも前々から書こうと思ってた話です! 嘉音は可愛いから、きっと女子に人気なはず^^ でも嘉音は慣れてないんで戸惑うんです← ちなみに今回登場した亜弥の友達。 気に入ってるので、また出したいです。
20090628
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