朝食の席で、亜弥は母の夏妃に思わぬことを口にした。
「お母様、実は折り入ってお願いがあるんです」
「何でしょう」
紅茶の一口飲み、視線を亜弥に向けた。
「私、これから夜は嘉音くんに添い寝をしてもらいたいんです」
「なっ何を言っているのですか!?」
バンっとテーブルを叩き、立ち上がる。
「聞いてください。私、嘉音くんが一緒にいてくれると、何故かよく眠れるんです」
「その話は聞きました。あなたの不眠症が治っていないことも。ですが…」
夏妃は徐々にトーンを落としていく。 そして、椅子に座る。
「いいんじゃねーの。亜弥がちゃんと眠ることができるならさ」
「朱志香、少しは亜弥を見習って言葉遣いを正しなさい」
怒られた朱志香は、夏妃に見られないように、んべっと舌を出した。
「…分かりました。許可します。ですが不眠症が治り次第、一人で寝るように。いいですね?」
「ありがとうございます!」
嬉しそうする亜弥に、夏妃は微笑む。
そして、席から立ちあがると、部屋へと戻っていった。
「ちぇっ母さん、すぐ言葉遣い言葉遣いってさ〜」
「仕方ないよ。お母さんだって、お姉ちゃんのこと考えてそう言ってるんだし」
「分かってるけどさぁ…てか亜弥、母さんたちの前でだけいい子ぶるのやめろよ」
なんか、変な感じがするんだよな、と苦笑いをする。
「だってこうしてた方が、いざという時何かと便利なんだもん」
「紗音や嘉音くんを庇ったりか?」
「うん。お母さん、二人のことあまりよく思ってないから…」
「母さんに気に入られている亜弥なら、母さんも多目に見てくれるってわけだな」
前回の壺の件も、亜弥が割ったと言ったとき、夏妃は怒るどころか、寧ろ心配したくらいだ。 今回もそう。 多分相手が朱志香なら、絶対に許しはしなかっただろう。
「亜弥って本当…」
「なぁに?」
「いや、何でも」
言葉をつぐみ、くっくと笑う。 そんな朱志香に、亜弥は首を傾げたのだった。
その後のこと。
「でも、正直意外でした」
「ん、何が?」
庭でお茶をしているとき、紗音はそう口を開いた。
「朱志香様は亜弥様と仲のいい嘉音くんを、あまりよく思っていないと思っていたので…」
「別にそんなことねぇよ。ま、私の亜弥と仲がいいのは、確かに少し腹立つけど」
「嫉妬ですね」
「うるせっ」
頬を赤くして悪態をつく朱志香に、紗音はにっこりと微笑んだ。
「けどさ、今回の件は嘉音くんじゃなきゃダメなんだ」
顔を、青い澄み切った空へと向ける。 そして、晴れ晴れとしたような笑顔を紗音に向けた。
「私じゃないのが、ちょっと悔しいけどさ。嘉音くんならきっと亜弥を助けてくれるって、信じてるから」
「朱志香様…」
「ま、亜弥に手を出しやがったら、ただじゃおかねぇけど」
そう言ってニヤリと笑う朱志香の目は本気で。 紗音はちょっぴり嘉音の身を案じた。
まあ、嘉音くんがそんなことするはず…ないか。
紅茶を一口飲む。 ふんわりとした甘さが、口の中に広がった。
その晩、亜弥はパジャマ姿で椅子に座り、机と向き合い宿題をしていた。
「ほら、亜弥様。そこ違いますよ」
「う〜…」
嘉音は、人差し指で指摘する。 亜弥は頭を抱えて唸った。
「分かんないよ〜!」
「きちんとやってもみないで諦めないでください」
「数学嫌いーっ」
「その台詞、英語のときも言ってませんでしたか?」
亜弥は朱志香と同じで、あまり勉強が得意ではない。 よく宿題をやらずに学校に行くため、最近では嘉音がチェックしたりしている。
「…うー、こう?」
「…正解です。やれば出来るじゃないですか」
「えへへ」
褒めれば伸びるタイプというのは、まさにこのことだろう。
亜弥は教材を鞄にしまうと、ベッドにダイブした。
「嘉音く〜ん、寝ようっ」
「……」
「どうしたの?」
嘉音のスペースを空けて彼を待つものの、その場に固まったままで。 不思議に思い、亜弥は首を傾げた。
「亜弥様、僕は、その…」
「ん?」
「これでも一応、男なんですよ」
「うん、知ってるよ」
嘉音は顔を赤くさせる。 亜弥はやはり鈍く、嘉音の言いたいことが分からないでいた。
「〜もういいです!」
「??」
嘉音は亜弥に背を向ける形で、ベッドに入った。
電気を消して暫くした後、亜弥は嘉音に声を掛けた。
「嘉音くんっこっち向いてよ」
「嫌です」
「ケチー」
「何とでもどうぞ」
その言葉にムッとしたのか、亜弥はさらに言葉を続ける。
「意地悪、無愛想、シスコン、ツンデレー」
「っ亜弥様!」
さすがに我慢出来ずに文句を言おうと亜弥の方を向こうと体を動かす。 すると向いた瞬間に##NAME1##に抱きつかれた。
「ちょっ何してるんですか!?」
「えへへーだってこうした方が、安心できるんだもん」
そう言って、嘉音の胸に顔を埋める。 ドキドキと胸が高鳴る。 嘉音はそんな自分の心臓の音が亜弥聞こえていないか心配になった。
「…亜弥様?」
「…スースー」
「ね、寝てる」
安心して、嘉音はホッと息をついた。 そして、ぎゅっと抱きついている亜弥と同じように、嘉音もまた亜弥を抱きしめた。
ふわりと香る亜弥の甘い匂いを最後に、嘉音は眠りについた。
「亜弥〜、朝だぜっ!って何やってんだ!?」
「へ…あ、お姉ちゃん。おはよ〜」
「おはようございます、朱志香様…」
「ああ、おはよ…ってそうじゃねぇ!何抱き合ってんだよ!」
「あ、ほ、本当だっ」
「も、申し訳ありませんっ」
「〜っ朝からラブコメんなー!!」
to be continue..
朱志香はこの日、一日中不機嫌でした(笑) 日に日に嘉音がツンツンからツンデレに…。 まあ可愛いからよし^^←
20090626
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