最近亜弥様がおかしい。 毎日のように遊びに誘いに来ていたのに、ここ暫くそれが全くない。 食事中も終始無言で、食欲もあまりないようだ。 一体どうしたのだろう…。
そんなことを考えながら、嘉音は仕事をしていた。
「どうしたの嘉音くん。ぼーっとして」
「え…別に、何でもないよ」
どうやら上の空だったらしい。 僕らしくない、な。
仕事に集中しようとするが、全く身が入らない。 紗音はそんな嘉音を見て、驚きを隠せないでいた。
「嘉音くん。何か悩み事でもあるの?」
「…別に、そんなのないよ」
「でも…」
「姉さんには関係ないから」
「…っ」
冷たく突き放される。 こんなこと、今まではなかった。
紗音は口を閉じ、仕事に意識を戻した。
最低だな、僕は。 心配してくれた姉さんに、酷いことを言って。 だけど…。
廊下を一人歩いて行く。 先程から、溜め息ばかりついていた。
「嘉音…くん」
「っ亜弥様」
前から亜弥がやって来た。 心なしか、表情が暗い。
「眉間に皺、寄っちゃってるよ?」
「亜弥、様」
「何か嫌なことでもあったの?」
「亜弥様…」
名前を何度も何度も繰り返し呼ぶ。 すると、亜弥は不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの…?」
「それはこっちの台詞です!」
嘉音は初めて大声を上げた。 そのため亜弥は目を丸くさせる。
「何かあったんですか?僕のこと、嫌いになりましたか…?」
「え、あの…」
「最近、誘いにも来てくれませんし、食欲もないようですし…」
「嘉音くん!」
亜弥は嘉音に負けないくらい、声を張り上げた。
「私、嘉音くんのこと嫌いになんてなってないよ。だって、大切な友達だもん」
──友達
その言葉に、嘉音は不思議な感覚に陥った。
「それから、心配してくれてありがとう」
亜弥はにっこりと微笑んだ。
「嘉音くんには言ってなかったけど…私、不眠症なんだ」
「え?」
嘉音は驚き、目を丸くした。
そんな嘉音に微笑みかけ、亜弥はゆっくりと言葉を続ける。
「子ども頃からずっとなんだ。最近は、お母さんに心配掛けたくなくて、元気に振る舞ってたんだけど…」
夏妃は頭痛を患っている。 亜弥は、そんな夏妃の負担になりたくなかったのだろう。 子どもっぽいところもまだまだあるが、ちゃんと周りを気遣う優しさを持っている。
「最近全然寝てなくて…」
ふらり、と亜弥の体が揺れる。
「亜弥様…!」
倒れる寸前、嘉音が亜弥を抱き留めた。
「大丈夫ですか?」
「……」
「亜弥様?」
返事がないので不思議に思い、顔を覗き込む。 すると、亜弥は目を瞑り眠っていた。 寝顔に思わずドキリとする。
この状況はまずい。 とにかく、亜弥様をお部屋に運ばなくては。
そう思い、嘉音は亜弥を抱き上げた。 所謂お姫様だっこというやつだ。
「軽い、な」
亜弥は自分より小柄だが、自分にはあまり力がない。 にも関わらず、軽々と抱き上げることができたことに嬉しさがこみ上げた。
ゆるりと口元を緩め、亜弥の部屋へと向かった。
部屋に着くと、ベッドにゆっくりと亜弥を寝かせた。 すると、自分の服の裾をギュッと掴む亜弥の手に気がついた。 それを解こうとするが、堅く掴んでいるため解けない。 どうしようかと考えていると、いきなり引っ張られた。
「…うわっ」
バランスを崩し、亜弥の横に倒れ込む。 寝息が頬にかかる。 嘉音は顔を赤らめた。
「どうしよう…」
心臓の音が煩いくらいに高鳴っている。 こんなところを夏妃に見られたら大変だ。 考えを巡らせるが、亜弥に意識がいってしまい、何も考えられない。
姉さん、助けて…!
嘉音が部屋から出ることができるまで、後二時間──
「嘉音くん、どこに行ってたの?」
「べべべ別に」
「どもってるよ?」
「そ、そんなことないよ」
「(いつもの嘉音くんじゃない…!)」
「亜弥、調子良さそうだな」
「うんっいつもよりよく眠れたんだ〜」
「よかったな!」
「えへへ、嘉音くんのおかげかなっ」
「へー、嘉音くんの…って、はぁ!?」
to be continue..
やっと完成! この後、寝るときはいつも嘉音と一緒になります(爆) その話は次回で^^ 20090624
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