06.不眠症



最近亜弥様がおかしい。
毎日のように遊びに誘いに来ていたのに、ここ暫くそれが全くない。
食事中も終始無言で、食欲もあまりないようだ。
一体どうしたのだろう…。

そんなことを考えながら、嘉音は仕事をしていた。


「どうしたの嘉音くん。ぼーっとして」

「え…別に、何でもないよ」


どうやら上の空だったらしい。
僕らしくない、な。

仕事に集中しようとするが、全く身が入らない。
紗音はそんな嘉音を見て、驚きを隠せないでいた。


「嘉音くん。何か悩み事でもあるの?」

「…別に、そんなのないよ」

「でも…」

「姉さんには関係ないから」

「…っ」


冷たく突き放される。
こんなこと、今まではなかった。

紗音は口を閉じ、仕事に意識を戻した。


最低だな、僕は。
心配してくれた姉さんに、酷いことを言って。
だけど…。

廊下を一人歩いて行く。
先程から、溜め息ばかりついていた。


「嘉音…くん」

「っ亜弥様」


前から亜弥がやって来た。
心なしか、表情が暗い。


「眉間に皺、寄っちゃってるよ?」

「亜弥、様」

「何か嫌なことでもあったの?」

「亜弥様…」


名前を何度も何度も繰り返し呼ぶ。
すると、亜弥は不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの…?」

「それはこっちの台詞です!」


嘉音は初めて大声を上げた。
そのため亜弥は目を丸くさせる。


「何かあったんですか?僕のこと、嫌いになりましたか…?」

「え、あの…」

「最近、誘いにも来てくれませんし、食欲もないようですし…」

「嘉音くん!」


亜弥は嘉音に負けないくらい、声を張り上げた。


「私、嘉音くんのこと嫌いになんてなってないよ。だって、大切な友達だもん」


──友達


その言葉に、嘉音は不思議な感覚に陥った。


「それから、心配してくれてありがとう」


亜弥はにっこりと微笑んだ。


「嘉音くんには言ってなかったけど…私、不眠症なんだ」

「え?」


嘉音は驚き、目を丸くした。

そんな嘉音に微笑みかけ、亜弥はゆっくりと言葉を続ける。


「子ども頃からずっとなんだ。最近は、お母さんに心配掛けたくなくて、元気に振る舞ってたんだけど…」


夏妃は頭痛を患っている。
亜弥は、そんな夏妃の負担になりたくなかったのだろう。
子どもっぽいところもまだまだあるが、ちゃんと周りを気遣う優しさを持っている。


「最近全然寝てなくて…」


ふらり、と亜弥の体が揺れる。


「亜弥様…!」


倒れる寸前、嘉音が亜弥を抱き留めた。


「大丈夫ですか?」

「……」

「亜弥様?」


返事がないので不思議に思い、顔を覗き込む。
すると、亜弥は目を瞑り眠っていた。
寝顔に思わずドキリとする。

この状況はまずい。
とにかく、亜弥様をお部屋に運ばなくては。

そう思い、嘉音は亜弥を抱き上げた。
所謂お姫様だっこというやつだ。


「軽い、な」


亜弥は自分より小柄だが、自分にはあまり力がない。
にも関わらず、軽々と抱き上げることができたことに嬉しさがこみ上げた。

ゆるりと口元を緩め、亜弥の部屋へと向かった。




部屋に着くと、ベッドにゆっくりと亜弥を寝かせた。
すると、自分の服の裾をギュッと掴む亜弥の手に気がついた。
それを解こうとするが、堅く掴んでいるため解けない。
どうしようかと考えていると、いきなり引っ張られた。


「…うわっ」


バランスを崩し、亜弥の横に倒れ込む。
寝息が頬にかかる。
嘉音は顔を赤らめた。


「どうしよう…」


心臓の音が煩いくらいに高鳴っている。
こんなところを夏妃に見られたら大変だ。
考えを巡らせるが、亜弥に意識がいってしまい、何も考えられない。

姉さん、助けて…!


嘉音が部屋から出ることができるまで、後二時間──










「嘉音くん、どこに行ってたの?」

「べべべ別に」

「どもってるよ?」

「そ、そんなことないよ」

「(いつもの嘉音くんじゃない…!)」





「亜弥、調子良さそうだな」

「うんっいつもよりよく眠れたんだ〜」

「よかったな!」

「えへへ、嘉音くんのおかげかなっ」

「へー、嘉音くんの…って、はぁ!?」



to be continue..


やっと完成!
この後、寝るときはいつも嘉音と一緒になります(爆)
その話は次回で^^
20090624



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