最近、嘉音がどことなく変わったような気がする。 紗音は嘉音と亜弥のやり取りを見ていてそう感じた。
「嘉音くんっ遊ぼっ!」
「…もうすぐ仕事が終わりますので、もう少しお待ちください」
「うんっじゃあお仕事手伝う!」
「…座って待っててください」
「えー、一緒にやった方が早く終わるのにぃ」
「……」
嘉音に無視をされたため、亜弥は不満げに頬を少し膨らませて椅子に座った。
はやり、変わった。 以前の彼ならば、どんなにしつこく言われても『命令』でなければ頑なに断っていた。
少しずつ変わっていく嘉音に、紗音は嬉しさで胸がいっぱいになった。
「…音、紗音!」
「は、はい!」
「どうしたの、ぼーっとして」
「い、いえ、何でもありませんっ」
かなりどもっている。 紗音は顔に出やすいのだ。 誰もが何か隠してるなと感づくのだが、鈍い亜弥は全く気付かない。
「そっか。あ、紗音も一緒に遊ぼうね!」
紗音は頭をフル回転させる。
ここでご一緒させてもらうのもいいけれど、それよりも…。
「私は仕事がありますので…。嘉音くんと二人で遊んでください」
『二人で』を強調してにっこりと微笑みかけた。 亜弥はそんな紗音へ残念そうな瞳を向ける。
「そっかぁ…」
「せっかく誘ってくださったのに…申し訳ないです」
「お仕事だったら仕方ないよっまた今後遊ぼうね!」
「はい!」
「亜弥様、」
嘉音が亜弥の方に歩み寄る。
「終わりました」
「さすが嘉音くんっお仕事終わるの早いね!」
「何をするんですか?」
「えへへーあのねあのねっ」
どこから取り出したのやら、亜弥は洋服を嘉音に差し出す。
「これ、着てほし…」
「絶対に嫌です」
亜弥が言い終わる前に、嘉音はきっぱりと言い放った。
「大体、どうしてナース服なんですか」
「だって〜、嘉音くんに似合うと思って…」
「僕なんかより、亜弥様の方が似合うと思いますよ」
「えっ…」
バサッと服が落ちる。 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのか、亜弥は頬少し赤くした。
「あ、えと、そ、そうだ。天気もいいし外行こう!」
返事も待たずに亜弥は駆け出す。
「嘉音くん、今のわざと?」
「さぁ?どうだろうね…」
あまり表情を表に出したりしない嘉音が、微かに笑ったように見えた。
二人が出て行った後、紗音は一息ついた。 こういったことをしたのは初めてだ。
嘉音くんが、これでもっと亜弥様に心を開いてくれればいいけれど…。
ふと床に落ちていた洋服に目が止まり、それを拾う。 広げて、まじまじとそれを見てから体に当ててみた。
「しゃ、紗音…何してんだ?」
「朱志香様!?や、これは違っ」
ドアのところでこちらを見て固まっている朱志香に、紗音は慌てて誤解を解こうとする。
「…そっか、紗音はそういう趣味だったんだな。うん、いいと思うぜ。きっと譲治兄さん、喜ぶよ…」
「そ、そうですか?…って、そんなんじゃないんです!」
譲治という言葉にドキリとし照れてしまったが、慌てて否定する。 が、朱志香は全く聞く耳を持たない。
「はいはい。あ、亜弥知らね?」
「亜弥様なら、嘉音くんと外に遊びに行きましたよ」
「は?嘉音くんと?二人で?」
「は、はい」
今にもつかみかかって来そうな朱志香に、紗音はたじろいだ。
「こうしちゃいられないぜっ追うぞ!」
「へっ私もですか!?」
「当然だろっ」
ガシッと腕を掴まれ、引きずられるようにして連れて行かれる。
…私の作戦、失敗しそうです。
外では、二人がバトミントンをしていた。 亜弥は先程から落としてばかりいた。
「うー、打てない…」
「もう降参ですか?」
「なっそんなわけないじゃん!」
「じゃ、いきますよ」
パシッと打たれたハネは、もはやテニスボール並のスピードで。 亜弥の真横をものすごい速さで飛んでいった。
「かかか嘉音くん、なんかバトミントンの領域を超えてるよ!」
「そうですか?頑張ればとれますよ」
「ええ!?無理だよぉ…」
「亜弥様なら、できますよ」
そう言って嘉音は少し微笑んだ。 亜弥は初めて見た嘉音の笑顔に、ドキリと胸が高鳴る。 そして、
「よーしっ私、頑張る!」
単純にも嘉音の口車に乗せられたのだった。
「何か邪魔できねぇ…!」
「朱志香様、館に戻りましょう?」
「くっくそぉぉお!!」
「あれ、今お姉ちゃんの声が聞こえたような…」
「そうですか?僕には聞こえませんでしたよ」
「…気のせいか」
「じゃ、いきますよ」
「だから速すぎるよぉー!」
to be continue..
今回は嘉音のために紗音が頑張るお話。 朱志香はこの後、分かりやすいくらい嘉音に嫌味になります(笑) それくらい亜弥を溺愛してるんですっ
20090614
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