05.変わり行くもの



最近、嘉音がどことなく変わったような気がする。
紗音は嘉音と亜弥のやり取りを見ていてそう感じた。


「嘉音くんっ遊ぼっ!」

「…もうすぐ仕事が終わりますので、もう少しお待ちください」

「うんっじゃあお仕事手伝う!」

「…座って待っててください」

「えー、一緒にやった方が早く終わるのにぃ」

「……」


嘉音に無視をされたため、亜弥は不満げに頬を少し膨らませて椅子に座った。


はやり、変わった。
以前の彼ならば、どんなにしつこく言われても『命令』でなければ頑なに断っていた。

少しずつ変わっていく嘉音に、紗音は嬉しさで胸がいっぱいになった。


「…音、紗音!」

「は、はい!」

「どうしたの、ぼーっとして」

「い、いえ、何でもありませんっ」


かなりどもっている。
紗音は顔に出やすいのだ。
誰もが何か隠してるなと感づくのだが、鈍い亜弥は全く気付かない。


「そっか。あ、紗音も一緒に遊ぼうね!」


紗音は頭をフル回転させる。

ここでご一緒させてもらうのもいいけれど、それよりも…。


「私は仕事がありますので…。嘉音くんと二人で遊んでください」


『二人で』を強調してにっこりと微笑みかけた。
亜弥はそんな紗音へ残念そうな瞳を向ける。


「そっかぁ…」

「せっかく誘ってくださったのに…申し訳ないです」

「お仕事だったら仕方ないよっまた今後遊ぼうね!」

「はい!」

「亜弥様、」


嘉音が亜弥の方に歩み寄る。


「終わりました」

「さすが嘉音くんっお仕事終わるの早いね!」

「何をするんですか?」

「えへへーあのねあのねっ」


どこから取り出したのやら、亜弥は洋服を嘉音に差し出す。


「これ、着てほし…」

「絶対に嫌です」


亜弥が言い終わる前に、嘉音はきっぱりと言い放った。


「大体、どうしてナース服なんですか」

「だって〜、嘉音くんに似合うと思って…」

「僕なんかより、亜弥様の方が似合うと思いますよ」

「えっ…」


バサッと服が落ちる。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのか、亜弥は頬少し赤くした。


「あ、えと、そ、そうだ。天気もいいし外行こう!」


返事も待たずに亜弥は駆け出す。


「嘉音くん、今のわざと?」

「さぁ?どうだろうね…」


あまり表情を表に出したりしない嘉音が、微かに笑ったように見えた。





二人が出て行った後、紗音は一息ついた。
こういったことをしたのは初めてだ。

嘉音くんが、これでもっと亜弥様に心を開いてくれればいいけれど…。


ふと床に落ちていた洋服に目が止まり、それを拾う。
広げて、まじまじとそれを見てから体に当ててみた。


「しゃ、紗音…何してんだ?」

「朱志香様!?や、これは違っ」


ドアのところでこちらを見て固まっている朱志香に、紗音は慌てて誤解を解こうとする。


「…そっか、紗音はそういう趣味だったんだな。うん、いいと思うぜ。きっと譲治兄さん、喜ぶよ…」

「そ、そうですか?…って、そんなんじゃないんです!」


譲治という言葉にドキリとし照れてしまったが、慌てて否定する。
が、朱志香は全く聞く耳を持たない。


「はいはい。あ、亜弥知らね?」

「亜弥様なら、嘉音くんと外に遊びに行きましたよ」

「は?嘉音くんと?二人で?」

「は、はい」


今にもつかみかかって来そうな朱志香に、紗音はたじろいだ。


「こうしちゃいられないぜっ追うぞ!」

「へっ私もですか!?」

「当然だろっ」


ガシッと腕を掴まれ、引きずられるようにして連れて行かれる。

…私の作戦、失敗しそうです。




外では、二人がバトミントンをしていた。
亜弥は先程から落としてばかりいた。


「うー、打てない…」

「もう降参ですか?」

「なっそんなわけないじゃん!」

「じゃ、いきますよ」


パシッと打たれたハネは、もはやテニスボール並のスピードで。
亜弥の真横をものすごい速さで飛んでいった。


「かかか嘉音くん、なんかバトミントンの領域を超えてるよ!」

「そうですか?頑張ればとれますよ」

「ええ!?無理だよぉ…」

「亜弥様なら、できますよ」


そう言って嘉音は少し微笑んだ。
亜弥は初めて見た嘉音の笑顔に、ドキリと胸が高鳴る。
そして、


「よーしっ私、頑張る!」


単純にも嘉音の口車に乗せられたのだった。










「何か邪魔できねぇ…!」

「朱志香様、館に戻りましょう?」

「くっくそぉぉお!!」



「あれ、今お姉ちゃんの声が聞こえたような…」

「そうですか?僕には聞こえませんでしたよ」

「…気のせいか」

「じゃ、いきますよ」

「だから速すぎるよぉー!」



to be continue..


今回は嘉音のために紗音が頑張るお話。
朱志香はこの後、分かりやすいくらい嘉音に嫌味になります(笑)
それくらい亜弥を溺愛してるんですっ

20090614



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