06


カイの背を追うように、少し後ろを歩く。
だって、横に並んで歩くなんて恐れ多いんだもの…!
それにしても、普段よりカイの歩調がゆっくりな気がする。
もしかして合わせてくれてるのかな、なんて考えが浮かんで。
思わず「へへっ」と笑みが零れた。


「何を笑ってる」

「っうわ!」


ドンっと、カイの胸元に頭をぶつける。
どうやら私の笑い声を聞き付けたカイが立ち止まり、振り返ったところを私が気づかないでぶつかってしまったようだ。
それにしてもがっしりしてるなあ…結構痛い。
手で頭を擦ると、意外な言葉が頭上から聞こえてきた。


「大丈夫か?」

「え…あ…、だ、大丈夫…です」

「…変な奴だな」


どもるわ敬語だわな私に対して、さらっと素っ気ない返事とフッという小さな笑い声。
馬鹿にされたと思い、少しの抵抗で睨んでやろうとしたが、カイの表情を見てその考えは一気に消し飛んだ。
いつも無愛想な表情をしているカイが微笑し、優しい目で私を見ている。
身体中の熱が顔に集まってくるのが分かった。


「っ、あの…」

「…なんだ」


上手く言葉が出てこない。
どうしちゃったんだろ、私。
しっかりしなきゃ、そう思っているとカイの肩越しに大好きなあの人を見つけた。
私はこの場から逃げるように、声を上げた。


「レイ!」


レイはこちらに気付き、歩み寄ってくる。
カイも私の声で、彼の存在に気づいたようだ。
私から視線をレイに向けるその表情はいつのまにか普段のものになっていた。


「よぉ、アヤにカイじゃないか。珍しい組合せだな」

「そういうレイは何してるの?」

「夕飯の買い出しさ」


右手に持っているビニール袋を少し上へ持ち上げて、そう説明した。
なるほど、掃除させられるためまだ帰ってこないタカオの代わりというわけか。


「レイは偉いね」

「世話になっているからな。これくらい当然だ」


こういう謙虚な性格も、レイの素敵なところの一つだと思う。


「二人は今帰りか?」

「うん、そうなの。さっき偶然カイと会って…それでね、送ってもらってるの」

「へぇ…カイがなあ」


珍しいものを見るような目でカイに視線を向ける。
するとそれが気に障ったのか、カイはフンっとそっぽを向いてしまった。


「なら一緒に帰ろうぜ。俺も帰る途中だったから」

「うっうん!」


わーい嬉しいな、なんて顔を綻ばせていると、カイが元来た道を歩いていく。


「カ、カイ!?」


驚いてそう声を上げると、カイは立ち止まって少しだけこちらを向いた。
けれど見えるのは横顔だけで。
不機嫌そうな表情は普段と同じなのだけど、醸し出している雰囲気は何だか違う気がする。


「…後はレイに送ってもらえ」


一言そう口にすると、私の返事も待たずに再び歩き出してしまって。
掛ける言葉が見つからない私は、そんなカイの後ろ姿を呆然と眺めているだけだった。



意味が分からない!
(でも一番分からないのは、カイが去ってしまって悲しい気持ちになってる自分)


20101230




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