放課後の帰り道、ヒロミと別れた私は一人とぼとぼと家に向かって歩いていた。 いつもならばタカオが一緒なのだが、今日は前回サボった掃除当番分をやらされているため、私は一足先に学校を後にしたのだ。 普段きちんと当番のときに掃除をしないからだと、先程までヒロミから散々文句を聞かされた。 ヒロミはタカオと同じ掃除当番のグループなのだ、怒るのも仕方がない。 家に帰ってしばらくすればきっと、今度はがっつり掃除をさせられてくたくたになりながら帰ってきたタカオに、愚痴を聞かされるだろう。 その光景が頭に浮かんで、思わず苦笑してしまった。 けれど全然嫌に感じないのは、もう慣れてしまったからだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと真横で長々と流れる川の近くに立っている人のことが目に入った。 風にひらりと、マフラーのような布が舞っている。 ああ…どこか見覚えがあると思えばカイだ。 気付いてしまったからには、素通りするのも何だか悪いように感じて、私はカイの方へと向かった。
「カイ、何してるの?」
驚くかなと少し期待しつつ声を掛けると、カイは普段の表情のままこちらへ振り返った。
「アヤか…。何って、見ての通りベイブレードの特訓だ」
言われてみて初めて、カイの足元で勢いよく回転しているドランザーに気がつく。 けれどそれ以上に、私はカイに名前を呼ばれたことに驚き、そちらに意識がいっていた。 カイと知り合って結構経つため、呼ばれたことは確かにあるのだが、どうしてだか未だに慣れないのだ。 緊張しているのか、胸の鼓動が早くなっているのを感じた。
「…どうした?」
「あっううん、何でもない。邪魔してごめんね。特訓、頑張ってね」
声を掛けられ、ハッと我に返った私は早口でそうまくし立てる。 そして帰るため、くるりと踵を返した。
「…待て」
「へ?」
カイの言葉に自然と足が止まり、振り返る。 するとそこには、地面で回転していたドランザーを屈んで掴み取るカイの姿が。 特訓はもう終わりなのかなと考えていると、カイがこちらへ近づいて来て。 訳が分からずただただ顔を見つめていると、カイが静かに口を開いた。
「送っていく」
「え、いやでも…」
「木ノ宮から、お前が一人で帰るとよく絡まれると聞いた」
「え…」
タカオ、余計なことを…! 確かに私は、一人で帰っているときに限って知らない人に絡まれる。 まさかタカオが、そのことをカイに話していたなんて思いもしなかった。
「お前をこのまま一人で帰して誰かに絡まれでもしたら、俺も後味が悪いからな」
行くぞ、と私の返事も待たずに歩き始める。 無愛想な言い方、だけどカイの優しさを感じた。
待ってよー、カイ! (あなたのことをもっと理解したいって、少しだけそう思った)
20101229
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