08


部屋に着くと、いつも通りタカオのベッドに腰掛ける。
男子の部屋と聞くと物が散乱していそうなイメージがあるのだが、タカオの部屋は意外にも片付いている。
多分おじいさんに怒られて、きちんと掃除をしているのだろう。
タカオは自分の椅子に座ると、机に鞄をおろした。
その姿を見て、レイがいないことに気がつく。
どうしたんだろう、と思っていると、キィ…と扉の開く音が聞こえてきて。
そちらに顔を向けると、コップの三つ乗ったトレーを手にしたレイが中に入ってきた。


「おじいさんからだ。ほら、アヤ」

「あっありがとう…!」


受け取ろうと腕を伸ばす。
コップを掴もうとしたとき、レイの指に少し自分の指が触れて。
その瞬間、ドキッと胸が高鳴った。
そんなこととは知らず、レイは私が受け取ったのを確認すると、次にタカオにコップを渡す。
トレーを机に置いて自分の分のコップを持つと、レイは私の隣へ腰かけた。


「サンキュー。走ったから、喉が乾いてたんだよな」


早速コップに口をつけ、ごくごく音を立ててお茶を飲む。
そして全て飲み干したのか、ドンッと机に置いた。


「でよ、アヤ!聞いてくれっ」

「う、うん…」

「あいつら、マジで人使いが荒すぎるんだぜ!俺が一生懸命掃除してる間ずっとペチャクチャ喋ってがんの」

「そ、そうなんだ…」


"一生懸命"にかなり力を込めて言うタカオに、思わず苦笑いしてしまう。
ちらりと隣にいるレイへ視線を向けてみると、ズズ…っとお茶をすすっていた。


「本当ひでぇよなー。おかげで見たかったテレビも終わっちまったしよ」

「お前がサボるからだろ?」

「ゔ…。それは言うなよ〜」

「まあまあ。でも…ヒロミも怒ってたよ」

「あいつだって掃除中、喋ったりしてるじゃねぇかよ」


唇を尖らせてそう呟くタカオに、この場にヒロミがいなくて本当によかったと思った。


「あっそういえば、帰ってくる途中カイに会ったんだけどさー」


その名前を聞いた瞬間、先ほどのように胸が高鳴った。
けれどそれは顔が熱くなるようなドキドキではなく、緊張したときになるドキドキで。
私は心を落ち着かせようと、お茶を口にした。


「すっげー機嫌悪そうでよ、声掛けたら普通にシカトしたんだぜ?」

「へ、へぇー。どうしたんだろうね、カイ」

「俺たちもタカオが会う前にカイに会ったが、最初は機嫌よさそうだったぜ。まあ最後は悪いように見えたが…」

「マジかよ。アヤ、お前何かしたんじゃねぇの?」


からかい半分、疑い半分、そんな感じの聞き方で。
思わず私は、眉をひそめた。


「どうして私なの?」

「えっ。あー…いや、何となく。お前かなり抜けてるとこあるから…」

「タカオ、失礼だろ」


レイがタカオを咎める。
それがすごく嬉しくて、嫌な気持ちが一気に吹き飛んでしまった。



やっぱりレイって優しいなあ。
(なんかアヤの奴、ニヤニヤしてやがる…!)


20110101




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