部屋に着くと、いつも通りタカオのベッドに腰掛ける。 男子の部屋と聞くと物が散乱していそうなイメージがあるのだが、タカオの部屋は意外にも片付いている。 多分おじいさんに怒られて、きちんと掃除をしているのだろう。 タカオは自分の椅子に座ると、机に鞄をおろした。 その姿を見て、レイがいないことに気がつく。 どうしたんだろう、と思っていると、キィ…と扉の開く音が聞こえてきて。 そちらに顔を向けると、コップの三つ乗ったトレーを手にしたレイが中に入ってきた。
「おじいさんからだ。ほら、アヤ」
「あっありがとう…!」
受け取ろうと腕を伸ばす。 コップを掴もうとしたとき、レイの指に少し自分の指が触れて。 その瞬間、ドキッと胸が高鳴った。 そんなこととは知らず、レイは私が受け取ったのを確認すると、次にタカオにコップを渡す。 トレーを机に置いて自分の分のコップを持つと、レイは私の隣へ腰かけた。
「サンキュー。走ったから、喉が乾いてたんだよな」
早速コップに口をつけ、ごくごく音を立ててお茶を飲む。 そして全て飲み干したのか、ドンッと机に置いた。
「でよ、アヤ!聞いてくれっ」
「う、うん…」
「あいつら、マジで人使いが荒すぎるんだぜ!俺が一生懸命掃除してる間ずっとペチャクチャ喋ってがんの」
「そ、そうなんだ…」
"一生懸命"にかなり力を込めて言うタカオに、思わず苦笑いしてしまう。 ちらりと隣にいるレイへ視線を向けてみると、ズズ…っとお茶をすすっていた。
「本当ひでぇよなー。おかげで見たかったテレビも終わっちまったしよ」
「お前がサボるからだろ?」
「ゔ…。それは言うなよ〜」
「まあまあ。でも…ヒロミも怒ってたよ」
「あいつだって掃除中、喋ったりしてるじゃねぇかよ」
唇を尖らせてそう呟くタカオに、この場にヒロミがいなくて本当によかったと思った。
「あっそういえば、帰ってくる途中カイに会ったんだけどさー」
その名前を聞いた瞬間、先ほどのように胸が高鳴った。 けれどそれは顔が熱くなるようなドキドキではなく、緊張したときになるドキドキで。 私は心を落ち着かせようと、お茶を口にした。
「すっげー機嫌悪そうでよ、声掛けたら普通にシカトしたんだぜ?」
「へ、へぇー。どうしたんだろうね、カイ」
「俺たちもタカオが会う前にカイに会ったが、最初は機嫌よさそうだったぜ。まあ最後は悪いように見えたが…」
「マジかよ。アヤ、お前何かしたんじゃねぇの?」
からかい半分、疑い半分、そんな感じの聞き方で。 思わず私は、眉をひそめた。
「どうして私なの?」
「えっ。あー…いや、何となく。お前かなり抜けてるとこあるから…」
「タカオ、失礼だろ」
レイがタカオを咎める。 それがすごく嬉しくて、嫌な気持ちが一気に吹き飛んでしまった。
やっぱりレイって優しいなあ。 (なんかアヤの奴、ニヤニヤしてやがる…!)
20110101
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