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wait forever
「さむ…」
白い息を隠すように首に巻き付けたマフラーを口元まで引き上げた。
早く温かい家に入るために買い物帰りの道を急ぐ。あとはこの角を曲がれば、そう思って顔を上げた瞬間、思わず足を止めた。
「…ミユキちゃん…?」
「っ!!葵ちゃん!!」
私の名前を呼んでこちらに向かって駆けてきた少女は、なぜか泣きそうな顔をして手にしていた紙を私に押し付けた。
「え、何?どうしたと?」
「これっ、兄ちゃんから…っ!!兄ちゃん帰省しとって、なのに会いに行かんで…っ」
ミユキちゃんが発した言葉に目を見開いて、無理矢理掌に握らされた紙に視線を移す。
ミユキちゃんの兄である男は、私の彼氏だ。いや、彼氏だった、の方が正しいかもしれない。
昔からフラフラした男だった千歳千里は、ある日突然私の目の前から姿を消した。彼女だったはずの私が千里の消息を知ったのだって、妹のミユキちゃんから聞いてからだった。
カサ、と音を立てながら雑に畳まれた手紙を開いて、しばらくした後握りしめた。
「…あいつ、どこおるん」
「っ、駅!!1時間後の新幹線乗るっちゃ…っ」
不安そうな表情のミユキちゃんの髪を撫でる。
「今から兄ちゃんブン殴りに行ってくるけん、安心しい」
くしゃりと笑ったミユキちゃんに背を向けて、来た道を走り出した。
ホームのアナウンスが響く中、改札をくぐり目当ての人物を探した。息を切らして顔をあげた時、線路を挟んで向かい側に見覚えのある姿を見つけた。
間違えるわけのない、周りよりび出た身長と癖毛の頭。
その姿を確認した私は勢いよく階段を駆けのぼった。
「〜〜〜っ、千里っ!!!」
人目も気にせず叫んだ私の声に、下を向いていた千里の頭はゆっくりとあがり、次第に目を見開いた。
「…葵?」
「あんたは…っ、どこまで人を馬鹿にすれば気がすむと…っ!?」
切れた息とふらつく身体を一生懸命整えながら、握ったままだった紙を千里の胸元に押し付けた。
拍子に開いた紙から見える文字の羅列に、抑えていた感情が溢れ出した。
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こげん男んこつ
葵はもう嫌いかも
しれんばってん
俺はずっと
好いとうよ
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「こんな…っ、こんな言葉をミユキちゃんに任せて、あんたはまた私の目の前からいなくなるんっ!?」
「葵、」
「いつ私があんたを嫌いになったん!?私ら別れとったんね!?」
人目も幅からず堪えきれない気持ちをぶつけていると、頬に何かが伝った。それが涙だと自覚した瞬間、ぼろぼろと零れるそれを拭うことも出来ずに立ち尽くした。
「なんか、なんか言ったら、」
どうなんね、と続けようとした言葉は顔を何かに押し付けられたことで遮られた。自分が千里の胸にいることを理解するのに、そんなに時間はかからなかった。
「…すまんかったばい」
「何が悪いか、わかっとるんね…っ!?」
「馬鹿やけんね、弱い俺を見せたくない強がりで、葵を置いて大阪に行ったったい」
「……」
「気持ちに区切りがついて、帰ってきても葵に会いに行く勇気がなかったんよ」
「勇気って、」
「…もう、見放されとると思っとった」
ぎゅ、と腕の力が強く込められる程私の身体の力は抜けて行った。
「…私が千里を嫌うわけないやろ」
「葵…」
「いつもみたいにフラッとおらんくなって、フラッと帰ってくると思っとった」
そんな奴だから、いつでも戻ってこれるようにずっと居場所を用意していたのだから。
「…気持ちに区切りってことは、抱えとったもん消えたっちゃね?」
「…ん、もう悔いもなんもないばい」
その時の千里の弱さとか、何があって解決したかとかなんもわからんけど。
「また行くっちゃろ」
「…まだ卒業もしとらんけんね」
「卒業しても、帰ってこんくせに」
私に言えない程の弱さを抱えた千里が、立ち直れた原因の何かはきっと向こうにあって。
「…高校卒業まで、待ってくれると?」
その原因とやり遂げたい何かがあることくらい簡単に想像できた。
パンッ――
渇いた音を鳴らして千里を見ると、困惑しきった顔で自分の頬を抑えていた。
「ミユキちゃんとね、約束したの。兄ちゃんブン殴ってくるって」
「……物騒な約束やね」
「待ってないわけ、ないでしょう」
ニッと笑って目の前にある千里の胸元を押す。
「待っとっちゃあよ、いつまででも」
「葵…」
ジリリ…と音が鳴り、ホームに新幹線が入ってきた。
「私がどれだけ千里のこと好いとるか、ちゃんと自覚しとって」
開いたドアに千里を押し込み、何か言いたげな表情に向かって手を振った。
「いつでも、帰ってきいね」
向こうでの目標を達成させて、笑顔で帰ってきて。
閉まるドア越しに呟いた言葉は届いてないかもしれないけれど、小さく笑った千里を待つのは、きっと苦じゃない予感がした。
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くじプリ!夢企画に参加、提出させていただきました。
葵様、素敵な企画ありがとうございました!