四天宝寺 短編
change *誕* 年末年始企画

クラスは一緒、テニス部マネージャー、加えて幼なじみ。

そんな肩書きを利用されまくって私が置かれた立場は“千歳千里捜索係”。

今日もしっかり息を吸って叫びます。


「ちーとせくーん!!!!!」
「はーあーい…って、葵。それはずるか。またやられたばい…」
「私は未だにこのネタで出てきてくれる千歳にびっくりだよ」
「その呼ばれ方で反応せんかったらジブリファン失格たい。なして俺の名前はさつきじゃなかと…」
「知らないよ。もし君の名前がさつきだったとしてもさつき君だからね。さつきちゃんにはなれないよ」


呆れながら寝転がった千歳の隣に座る。


「なして葵は学校におるんね?」
「君の寮のお友達に呼ばれたの。“千歳が大掃除サボって消えた!!”って。私だって家の大掃除してたんだけど」
「それでも来てくれるっちゃけん、愛やね!!」
「ありえない」


バッサリ切り捨てた私の言葉に千歳は頬を膨らます。おっきくなっても、変わらない。


「大体さ、幼なじみって言っても年に1回私が親戚の家に行った時に遊んでた隣の家の子だっただけじゃんね?」
「ここに来て葵がおった時は驚いたばい」
「何度も聞いた。だからさ、幼なじみだろ!!とかの理由で私を引っ張り出すのおかしいと思うんだよね。そんな理由の幼なじみなんてやだよ。千歳だってわざわざ私じゃなくてもさ」


そう思わない?という意味を込めて千歳に視線を投げかけて固まった。


「…なんて顔してんの?」


千歳は怒りと悲しみが混じったような苦しそうな目でこちらを見つめていて。

先程までの子供っぽい表情は面影なく消えていた。


「葵は、俺が幼なじみじゃ嫌なんね?」
「は?いや、千歳が嫌とかじゃなくてさ…」
「…葵は、なして俺がここにおるかわからんと?」
「え?なんでって、いつもの放浪癖でしょ?」
「そげん理由で寒い中外には出らん」


意味わかんない。何が言いたいの?
第一、暑い日も寒い日も構わず放浪してるじゃん。いっぱい探した覚えあるよ?


「葵が探しに来てくれるけん、おらんくなるんよ」
「…は?」
「どげん暑くてもどげん寒くても、葵は探しに来てくれる。その間俺んこつ考えてくれる。それが、嬉しいったい」


千歳が紡ぐ言葉の意味が理解できないほど、私は子供じゃない。自惚れじゃなければ…、そう考えると身体中が熱くなるのを感じた。


「ち、とせ…」
「知っとう?俺は休みの日に放浪なんてせんばい」
「…え?だって今日、冬休み…」
「今日は俺の誕生日たい」
「…は!?」


笑いながら放った千歳の言葉に目を見開く。誕生日なんて、知らなかった。


「世間は大晦日やけんね、そげん忙しい日にでも、葵が俺んこつ探しに来てくれたら言おうと思っとったことがあるっちゃ」
「…何?」


不思議な緊張感に耐え切れずに俯いて尋ねる。だって、こんなの想像してなかった。


「好いとうよ、葵。俺のもんになってくれんね?」


優しい声に自分が真っ赤になっているのがわかる。ゆっくり顔を上げると、あれだけ優しい声を出したとは思えないくらい不安そうな千歳がいて。

それが、すごく愛おしいと思った。


「…やっぱり、千歳の幼なじみなんてやだよ」
「〜っ、…わかったばい」
「勘違いしないでよ?」


苦笑して立ち上がろうとした千歳の腕を引っ張る。


「幼なじみじゃなくて、彼女がいい」


目を見開いた千歳が顔をくしゃくしゃにして笑う。

なんだ。私もきっと、千歳がずっと好きだった。