四天宝寺 短編
アナログ 年末年始企画
※甥の名前に捏造あり


(どないしよ…)


年末の忙しい時期に、俺は机の上にある1枚の紙を睨みつけていた。


「今日までに出さんと確実に元旦には届かんかったよなあ」


そう、俺が睨みつけているのは年賀状である。昨今年賀メールを送るだけの人間も少なくない時代に、加えて普段は超がつく程のデジタル人間の俺が、年賀状。


「あかん、何書けばいいんやろ」


先に埋められた宛名は、最愛の彼女である葵さんのもの。

『あけましておめでとう』は一番に言いたいし、メールが繋がらんで出遅れるなんて以っての外やから、日付が変わる前から電話するつもりではいる。

そうなると、形に残らんなと思った俺はこの葉書を出すことにした。


(した、んやけど…)


調子に乗るから絶対に肯定はせんけど、俺がツンデレと言われとることも実際そういう部類に属してしまっとることも重々自覚済みや。

葵さんと二人やとついつい気が緩むし、葵さんに対するメールや電話では簡単に『好きや』なんて言ってしまう。

この年賀状にだって、葵さんに対する気持ちをぎょうさん書きたい。『今年も大好きです』とか、書きたいことは溢れとる。それを素直に書けないのは、これが年賀状だからだ。


「絶対、葵さんの家族が見るやろ…」


封筒に入っているならまだしも、これは葉書で内容は丸見えだ。しかも年賀状なんて大量に届くものはきっと家族の誰かが仕分けをする。

お互いの家族は付き合っとる人がいることは知ってはいるが、部活が忙しく挨拶なんて行っとらん。

つまり、会ったこともない娘の彼氏が年賀状で娘に甘えている状況を見てしまうことになる。
そんなの、俺の第一印象が悪すぎるやろ。


「年賀状って、こない大変やったけ…」


溜め息をつきながら考える。葵さん以外に年賀状なんて送る気はないが、なんとなくテニス部のことを考える。

部長は、多分部員全員に無駄のない綺麗な挨拶の年賀状を送るんやろな。余計に枚数買うとかせんで、きっちり使い切るんや。

副部長は、印刷された年賀状に一言ずつ添えてくる気がする。
銀さんは恐ろしく達筆な年賀状が来そうや。

ホモ2人はメールやろな。小春先輩はデコメいっぱいのメール。ユウジ先輩は一言だけの一斉送信。

千歳先輩は絶対なんもせん。自信がある。

金太郎は、汚い殴り書きの年賀状がきそうや。

んで、謙也さんは…。メールっぽいけど繋がらん状況が嫌いで年賀状やな。早うから書き始めて、下手したら年賀状の受付開始より早く出すタイプや。


「ひーくん!!おてがみきとったで!!」


いきなり部屋に飛び込んできた甥が手にするのは、1枚の葉書。

宛名を確認して思わず吹き出す。


「謙也さん、期待裏切らんすぎるやろ」


フライングで年末に年賀状が届く人、久しぶりに見たわ。

ブログのネタにしたろ、と携帯を取り出そうとすると、机の上をキラキラした目で見つめる洸太の姿が目に入った。


「ひーくん、これねんがじょうやろ!?葵ちゃんにだすん!?」


そういやこいつだけ葵さんに会うたことあったなと思い出す。


「あ?…関係ないやろ、ほら出ていき」
「ぼくも葵ちゃんにかく!!ええやろ?」
「は?って、こら!!」


止める声も聞かずペンを握って絵やら文字やら書き始めた洸太に溜め息をつく。


「光君、洸太おるー…って、何しとるん?」
「オカン!葵ちゃんにな、年賀状書いとるんや!!」
「葵ちゃん…って、光君の彼女の!?なんや、私も一言書くわ!」
「は?何言うとるん!?」
「やってお世話になってますって言わなやろ?あ、どうせならみんなに一言書いてもらお。洸太、リビングに持ってき」
「はーい」
「ちょ…!!」


勝手に盛り上がって年賀状を奪って行った親子を呆然と見送った。


(…もう、どうにでもなれや)


俺らしくないごちゃごちゃした年賀状を見て溜め息をついた。



『葵、年賀状きとるで』
『んー?…光?…っふふ』
『なんや、葵の彼氏の年賀状か。…おもろい家族やな』
『“ひーくんをよろしく”やって』
『うちも葵をよろしゅうて書かなやろ!!おかん、年賀状持ってきて!!』
『ちょ、…今年は家族みんなと仲良くなれたらいいね』