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君への魔法
「…アホちゃう?」
「うっさい」
秋晴れの気持ち良い青空の下開幕したスポーツ大会。
元気な若者達が爽やかに汗を流す中、私は初っ端から暴言を吐かれております。
「暴言なんて吐いとらんやろ。事実を口にしたまでや」
「わかっとるわ。私もまさか自分がここまでアホやったとは思わんかったんや」
例の如く開会式で校長のボケにみんながこける、いつものことやったのに。
「あんな、葵。お前が知らんみたいやから教えたるけど、この救護テントはスポーツして怪我した奴のために設置しとんねん」
「知っとるっちゅーねん」
こけ方を失敗して足を捻るなんて誰が想像できたんや。
「あーあ、私今日大活躍の予定やったんやで」
「葵はアホみたいにスポーツだけは出来るからなあ」
「うっさい。技術の成績やって白石に負けたことないもん」
「体育に技術て、ほんま男前なやっちゃ」
呆れた視線を送ってくる白石を軽く睨むと、馬鹿にしたように鼻で笑われた。
「…白石、今私のこと馬鹿って思ったやろ」
「よおわかったな」
「関西人に馬鹿は禁物なんやで!?あんたも関西人の端くれならわかるやろ!」
「誰が端くれや。正真正銘関西人やっちゅーねん」
あほらしい会話を続けた後、虚しくなってグラウンドに目を向けた。
「…白石は何か出らんの?」
「今日はずっと救護テントや。人手が足りんのやと」
「つまらんやろ」
「…ま、俺みたいな完璧な奴が出たら他の奴らが可哀相やろ?」
「うわ、いたい」
「なんやて?」
グチグチ文句を言う白石の言葉を聞き流しながらグラウンドを見つめる。
私はつまらんで。身体動かせんなんてほんまつまらん。白石かて、動くの大好きなくせに。何が人手が足りんや。他の保健委員走り回っとるやん。どうせ、当番が決まらんかったから全部自分が引き受けるとか外面良く言ったんやろ。
葵ー!!なんて遠くで手を振っとる友人に手を振り返して立ち上がる。
「なんや、どこ行くん?」
「決まっとるやろ、出場してくる」
「はあ!?足捻っとる奴が何言うてんねん!?」
「こんな怪我くらいで葵さんは負けんで!」
「悪化するに決まっとるやろ!!」
「舐めときゃ治るわ」
「治るか!!目に見える怪我ならともかく、お前が舐めたくらいじゃ内側の怪我は治らん!!お前にそんな力はないで!!」
テントの中でギャーギャーと言われることにイラッとして私は履いていた靴下を脱いだ。
「な、なんやねん」
「じゃあ白石が舐めてくれるん?」
「は、はあ!?」
「完璧な聖書様ならそんな力もあるんとちゃうの?」
ほれ、と投げ出した足と私の顔を交互に見ながら口をパクパクさせている白石を鼻で笑う。
「私がアホな白石の分まで走ってきてやる言うとんのや。大人しく座って見とき」
そう言い捨てて脱いだ靴と靴下を手にして歩き始めようとした時、パシッと腕を掴まれた。
「は?なん…っ!!」
なんやねん、と最後まで言うこともできず、私は固まった。
私の足元にはひざまずいて足首に口をつける白石の姿が。
「〜〜〜っ!?ちょ、白石!?何やって…!?」
「何を考えてくれとんか知らんけどな。今日1日当番で萎えとった気持ちは誰かさんが初っ端から怪我してくれたおかげで吹っ飛んだんや」
「意味、わからん…っ」
え、まじで何言うとんの!?
「今日一日葵と2人で一緒におれるっちゅーのが嬉しい言うとんねん。やから大人しくここにおれ。そないに走っとる俺が見たいなら1回だけ走ってくるわ」
そう言うと白石は肩を押して私を椅子に座らせたままグラウンドの方へ走って行った。
(なん、今の……)
全く状況を理解していない頭で唯一わかるのは、白石の行動も言葉も嫌じゃなかったということだけだった。
((絶対顔赤い……))