四天宝寺 短編
君を笑わせる方法

「…光、もう無理」
「じゃあさっさと諦めればええやないっスか」
「それができたらこないに悩まへんー…」


今日も俺の元にやってくる、俺の好きな人。

俺を見つけては遠くからでも駆け寄ってくれるし、朝も一番最初に声をかけてくれる。

それに素直に喜べないのは、葵さんは俺じゃない人を想いながら俺のところに来るから。


「…忍足君、今日も格好良かった」
「…謙也さんが格好ええとかありえんっスわ。あんなんただの足早いだけのヘタレやん」
「人間1個でも誰にも負けへん特技持っとれば十分や。ついでにヘタレでもええ。そんなん気にならんくらい優しいもん」


だめや。謙也さんけなしたのに俺が傷ついとる。

目立つ特技がないからあかんのか?天才とか呼ばれながら、先輩らや金太郎にも勝たれへんから?

優しくないとあかんのか?謙也さんみたいに素直やのうて、捻くれたことばっかりしか言えんから?


「…そろそろ謙也さん来ますよ」
「うわ、じゃあ自分の教室帰るわ!」


葵さんは謙也さんと喋ろうとしない。顔見るだけでいっぱいいっぱいなんやと。


「…光っ!!」
「なんスか」
「いっつもありがとな!!光がおってくれるおかげで諦めんと頑張れるんやで」


ほな、と最大級の笑顔で去って行った葵さんを見送って、ゆっくりと机に伏せた。


(…反則や)


あんなん言われたら、諦められへん。
ただの便利な後輩とでも思っとれや。
なんで俺の存在求めるんや。


「財前ー…」
「……なんスか」


不意に聞こえた声に伏せたまま視線だけそちらに寄越す。


「また芦原さん来とったん?」
「…まあ」
「なんで俺が来る前におらんようなるんやろ。やっぱ避けられとんかな」
「…さあ」


なんやねん、謙也さんなんかが落ち込める要素あらへん。


「もっかい聞くけど、ほんまに付き合ってないんよな!?」


必死なその表情と言葉に、俺の中のなにかが弾けた。


「うっさいっスわ、先輩。心配ならさっさと告ればええやないですか」
「なっ、できるわけないやろ!!そないな見込みのない告白できるか!!」


見込みない?何言うとんねん。やっぱり謙也さんに格好ええとこないわ。ただのヘタレや。


「ぼやぼやしとると、無理矢理にでも俺が貰います」


それだけ言い放って、俺は勢いよく教室を飛び出した。


「…〜っ、う、あ、っ」


やっと立ち止まった屋上で、俺はフェンスにしがみつき嗚咽を漏らした。


あれだけ言えば、ヘタレな謙也さんも焦って行動にでるやろう。


(…ほんま、はよくっつけばええんや…っ)


大好きな人と、大事な先輩が幸せになるならええやないか。

二人が手を繋いで笑う姿を見かけても、いつものように捻くれた言葉をかけたる。


だから、今だけ。
誰もおらんこの空間だけ。


(……素直にならせてや)


「………っ、好きや、大好きやっ!!」


俺がこんなに想ってあげとるのに身引く言うとるんや。
幸せにならんと、ほんまに許しませんよ、葵さん。