氷帝 短編
愚かな君へ *誕*

「うわ、何これ」
「俺様へのバースデープレゼントに決まってんだろ?」


ドヤ顔で言い放った跡部に溜め息をつく。


「家に帰ればこれの3倍はプレゼントが来てるぜ?世界中の資産家が送ってきているからな」
「…こーんな親のすね丸かじりのガキのご機嫌取りなんて、金持ちの世界も暇なのね」
「アーン?」


跡部は眉間に皺を寄せながら、私が座ったソファに近寄ってきた。
ギシッと音を立てて私が動けないように私を挟み両手をソファに置いた。


「…何?」
「生憎、そんなプレゼントじゃ俺様の機嫌なんて取れないんだよ」
「あらそう。残念ね」
「俺様の女からのプレゼントがまだなんだがな?」
「女?それがもし私のことを言ってるのなら、勘違いも甚だしいわよ?私はあなたの女になったつもりないもの」


嘲笑うように跡部と目を合わす。

私は跡部の女じゃない。
ただの一般家庭の庶民である私になぜか一目惚れした跡部が、拒む私を余所に氷帝にまで転校させ、婚約者として公表しただけ。


「…素直じゃねえな、葵。この体勢なら無理矢理プレゼント貰うこともできるんだぜ?」


にや、と笑う跡部を心の中で笑う。
この男はそういうことに関しては口だけだ。
過去何度同じ部屋に泊まらせられたかわからないが、一度だって襲われたことはない。それは、私が跡部の女になると認めていないから。

他の女にはどうなのか知らないが、私を気軽にそういうことができる対象として見ていないのがわかる。

自分で言うのもなんだが、跡部は本気で惚れた女への愛情のかけ方がすごい。

…口ではいくらでも偉そうにしているが、大切にされているのがわかる。

自分で言ったことが私を傷つけてないか恐れ伺うその目も、私の肩に触れるかどうか迷って宙を泳ぐその手も、まるで壊れ物を扱うように慎重で。

あの自信家の跡部景吾のこんな姿を知っているのは私だけだろう。

無理矢理氷帝に引っ張ってきた行動力は今の跡部にはない。

思わず微笑を零すと、跡部の肩に触れそうで触れなかった跡部の指がピクッと動き、一瞬肩に触れた。
ああ、そんなことに焦っているなんて。


「跡部」
「……なんだ」
「目閉じてみて?」
「なんで、」
「いいから、ほら」


言う通りにする気のない跡部の目に私の掌を被せる。
掌にあたる長い睫毛が震えているのがわかる。


「…葵?」


私なんかに惚れるなんて、意味がわからない。なんて愚かで、


「…景吾」
「〜〜っ!?」


チュ…ッ


「誕生日おめでとう」


なんて愛おしい。



ゆっくり手を離すと、そこには顔を真っ赤にした景吾。

あなたがくれるたくさんの愛を、そろそろ同じくらい私もあげる。

そう囁けば震える腕に包まれた。