21
--幸村side--
控え目にノックされた音が聞こえ、読んでいた本から顔を上げる。
今日は誰も来る予定はないし、看護師さん達はノックをしたら返事なんて聞かずに入ってくるのに。
首を傾げながらどうぞ、と声を掛ける。
ゆっくりと開いた扉に、自分が尋常じゃないくらいに驚いているのを感じた。
「白神、さん…っ!?」
「こ、こんにちは…」
え、だって、なんで?
自分の思考がついていかなくて、とりあえず白神さんが立ってるのに俺がベッドにいるなんてありえないと思い起き上がろうとすると慌てて白神さんから止められた。
「あ、あのね?母のお見舞いの帰りで申し訳ないんだけど、幸村君のお見舞いに…」
白神さんの口から紡がれる想像もしていなかった言葉に、俺の思考回路は完全に停止していた。
「…迷惑、だった?」
はっきりと理解できた白神さんの言葉に思いっきり首を横に振ると、安心したように微笑まれた。
…白神さんに気を遣わせるなんて、ありえない。
「あのね、テニス部のみんなが練習で忙しいって聞いて、おこがましいかもとは思ったんだけどね」
そう言って差し出されたのは、柳が纏めてくれているノートだった。
「…え?」
「病院に行くから、渡しとくよって預かってきたの。ミーティングの纏めだって」
「あ、ありがとう…」
もうすぐ公式戦が始まるから部内の様子が知りたくて、だけど試合前だからこそ皆は部活に専念しなければいけない。
白神さんに運ばせるなんて失礼すぎるよ、って言いたいところだけど、これは素直にありがたかった。
「それとね、」
そう言って白神さんは手に持っていた小さな紙袋を開くと、中から綺麗にアレンジメントされた花だった。
「これは、私から」
ふわっと微笑んで差し出された花に自分が固まるのを感じた。
「…え、え!?」
「昨日何も持たずにお邪魔しちゃったから…」
「そ、そんなの…っ」
「幸村君のために作ってもらったの。…もらってくれる?」
ずるい、そんな言い方されたら頷くしかできないじゃないか。
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