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「悪い、待ったか!?先食っててよかったのに…」
「ううん、さっきまでね、仁王君と柳君がいてお話してたから」


教師に頼まれた仕事を片付け紗弥の元へ急ぐと、ベンチに腰掛けたままの紗弥が待っていた。


「仁王と柳…?」
「うん。ちーちゃんが仁王君の髪の紐持ってきちゃって追いかけてきたみたい」


予想外に耳に入ってきた名前に聞き返せば、これもまた予想外な答えが返ってきた。

…たまに柳が仁王に注意してる猫ってもしかしてちーのことだったのか。


「…あいつらなら、ここに残って一緒に昼食うとか言いそうだけどな」


特に柳なんてデータ収集にはもってこいのタイミングなのに。そう思って呟きながら腰を降ろすと、それがね?と声が聞こえてきた。


「一緒に食べる?って誘ってみたんだけど、遠慮するって言われちゃった。真田君のとこに行くとか…?」


(遠慮?…真田?)


真田のところにあの2人が一緒に行く用事なんてあるだろうか?

何考えてんだ、とまで考えたところで、俺に正解なんてわからねえと悩むことをやめた。


「あー…、今日も見舞いか?」
「うん。あとちょっとで退院だから」
「そうか。…前みたいに寝不足になるほど無理してないよな?」
「あれはあの時だけだから、…ご迷惑おかけしました」


苦笑する紗弥につられて俺も笑う。無理して嘘ついてる様子もないから、これは本当なんだろう。


「ジャッカル君は?幸村君のまたお見舞い行くの?」
「あー…行きたいところなんだけどよ、もうすぐ大会も始まるし、頻繁には行けなくなるな」


幸村を待つ間、負けなんて記録は残したくない。残さない。部員全員が気合いを入れている中で、見舞いばかり行ってられない。


「…大会、」


不意に聞こえた紗弥の小さな声に首を傾げる。


「…?なんか気になったか?」
「え?あ、ううん!大会、頑張ってね!」
「おう、ありがとな」


残り10分程の昼休みをゆっくりと過ごしながら、紗弥の応援にこっそりと気合いを入れた。



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