16
--柳side--
猫を追うことに集中しすぎていた、とでも言えば言い訳になるだろうか。今が昼休みで、自分達が足を進めた方向が“暗黙の立入禁止”の場所だということがすっかり頭から抜けていた。
何が言いたいかというと、目の前の光景に仁王共々固まっているのだ。
「ちーちゃん?リボンなんて誰につけてもらったの?」
『ミャー』
「あはは、似合ってるよ。ちゃんとお礼は言った?」
見たこともないような笑顔で猫と触れ合っている彼女を見るなど、誰が予想できただろうか。
優しい指使いで猫を撫で、するりと仁王の紐にまでそのまま指をかける。愛しいという感情を目一杯溢れさせて行われるそれは、我々が固唾を飲んで立ち尽くすには十分だった。
『ミャッ』
「ん?どこに行くの……って、…仁王君と柳君…?」
猫がこちらへ駆けてきたことで
気付かれ声をかけられて、ようやく自分の意識が戻った気がした。
「わ…、もしかして見られてました?恥ずかしいな…」
照れたように笑う白神に背筋を伸ばし、熱くなる頬をごまかすように口を開いた。
「白神は、ここで昼食を?」
「うん。ジャッカル君が先生に呼ばれてるから、ちーちゃんと2人で待ってるの」
ちーちゃん…?と感じた疑問は、白神の足に擦り寄っている猫の鳴き声でこの猫の名前だと理解した。
ふわりと笑って大切そうに発された部活仲間の名前に少し悔しさのようなものを感じつつ、改めて白神に向き直る。
「すまない、わざとこの場所へ近付いたわけではないんだ」
「え?」
「その猫の首の紐、俺のもんじゃき返してもらおうと思っての」
「え、あ、ちーちゃんの?」
こくりと頷いた仁王を確認し、白神は猫を招き寄せる。
白く長い指が紐をするりと解く一挙一動に目を奪われた。
「仁王君、後ろむいて?」
かけられた言葉に恐らく反射で後ろを向いた仁王の髪にゆっくりと彼女の手がかかり、思わず目を見開いた。
俺でさえ驚いたそれを、当事者が驚かないはずもなく。ひどく肩を揺らす詐欺師は滑稽に思えた。
「な、な、なん…!?」
「あ、ごめんなさい。鏡もないし結ぼうかと思ったんだけど……嫌だった?」
ブンブンと首を横に振る仁王に、よかったとまた笑い白神は動作を再開させた。
▼