12
「ジャッカル君、何かあった?」
心配そうな顔をしてこちらを見つめてくる紗弥に驚いた。
(なんか表情にでてんのか…?)
自分に表情の変化があるとしたら、原因として考えられるのはブン太達の会話くらいで。
そんなことを紗弥に言えるはずもなく、なんでもないと返すと紗弥は少し寂しそうな顔をした。
「…紗弥?」
「紗弥先輩!!ジャッカル先輩だけじゃなくて俺も構ってくださいよー!!」
「え、あ、うん…?」
なんでそんな顔するんだ?と聞きたかったが、紗弥が赤也に引っ張られたことであっさりと中断された。
(やっぱりテニス部の奴らにバレると、紗弥といれる時間減るよなあ)
わかっていたことを目の当たりにして溜め息をついていると、前の方から視線を感じて顔をあげた。
かちり、とあった視線に驚いていると視線の主は微笑んで口を開いた。
「ジャッカル君!頼りないかもしれないけど、私も話聞くくらいならできるよ」
俺がどんな顔をしていたのかは自分ではわからないけど、悩んでいるようにでも見えたんだろうか。
ただ、今はそんなことよりも、
(やばい……)
嬉しさで顔をあげられない。
紗弥の近くには、ただでさえ人気のあるテニス部の中でも群を抜いて好かれている奴らがいる。
そんな奴らと一緒にいるのに、俺の方を気にしてくれるなんて、嬉しく思わないはずがない。
「ありがとな、紗弥!大丈夫だから」
本心からの言葉を投げかけると、紗弥は安心したようにふんわりと笑った。
(相変わらず、心狭いな)
自分自身に呆れて苦笑を零す。
最初に、ただ紗弥が頼れる存在になれればいいなんて自分が思ったくせに、紗弥を知れば知るほど他の奴らより近い存在でありたいと思っている自分に気付く。
紗弥はそんな醜い部分まで全部見透かしているようで、それでも俺が一番安心できる言葉をくれる。
(…どっちが頼ってんだろうな)
ブン太達と楽しそうに笑う、大切、と自信を持って言える存在になった紗弥を眺めながら思わず笑みを零した。
▼