08
--丸井side--
「えーっと…、いらっしゃいませ?」
ふんわり笑う白神様に固まっていると、しばらくして白神様が発した言葉が頭の中に入ってきた。
「…え、いらっしゃいませ、って…」
「ここね、私のお家なの」
本格的に自分が固まるのがわかった。白神様の家って…、え?
正直言ってイメージが結び付かない。だってここはどこにでもあるような小さな定食屋で。白神様の家って綺麗で大きな洋風でお洒落なイメージがあったから。
「…〜っははは!白神様、それ反則だろぃっ!」
「え、え?」
「あれだけ何しても絵になる人の、こんなミスマッチな姿が見れるとは思わなかったぜぃ!」
エプロンをつけてTシャツとジーンズで両手に定食を持った庶民的すぎる白神様の姿なんて、誰が想像できる?
「おーい少年、誰に対してそんな失礼な口をきいてるのかな?」
「へ?いった…!痛い痛い痛い…!」
不意に聞こえた不機嫌そうな声に振り向くと、店主のおじさんから思いっ切り耳を引っ張られた。
「…お父さん、何してるの?」
「だってこの少年失礼じゃない!?」
「私のお友達に失礼なことしてるのはお父さんだよね?」
にっこりと笑う白神様に耳を引っ張られる力が弱まる。…って、お父さん…?
「お友達…?」
「うん。丸井君、今日お友達になったの」
「ま、丸井ブン太です!立海の3年で…、白神様のお父様だったんですね…!」
白神様の言葉に慌てて頭を下げる。てか白神様の口から友達って…嬉しすぎるだろぃ。
「また男の友達…、お父さんは女の子の友達と紗弥が仲良くしてる姿が見たいんだけど!」
「お、女の子の友達だっているよ?クラスのみんな仲良くしてくれるし…!」
「外国人だったり赤髪でチャラそうだったり、なんで普通の子じゃないのさ!」
「そんなのお父さんの偏見でしょ…」
2人の口論を呆然と見ていると、隣で親父が可笑しそうに笑っていた。
「…自分の息子がけなされてんのに笑ってんなんよな」
「赤髪でチャラいのは本当だろ?あんな綺麗な子の父親だったら娘の友達がお前みたいなのだったら嫌にもなるわ」
「う…っ」
「しっかしびっくりするくらい綺麗なのに親しみやすそうな子だなあ」
(親しみやすい…?白神様が?)
確かに友達になって印象変わったけど、今まで一目見ただけで親しみやすいなんて思った奴いたかよぃ?
でも確かに、目の前にいる白神様は今まで見てきたどの姿よりも自然に笑っていて、今まで憧れていた姿とは違うのに、もっともっと仲良くなりたいと心の底から思っていた。
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