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「…あの子ね、身内贔屓とか親馬鹿とかを抜きにしても、すごく綺麗な子でしょう?」
「は、はい」


笑顔のまま話される言葉に頷くと、少し寂しそうな表情で微笑まれた。


「なんで私達夫婦からこんな子が産まれたんだろうって、何度も思ったわ。もちろん悪い意味じゃないけど、どう育てたらいいのか迷いがあったのも事実」


言いたいことはわかる。お母さんはとても綺麗な方だが、なんというか。紗弥は次元が違う。


「大好きで大切な娘だから、何もしてあげれないけど愛情だけはとにかくいっぱいあげたの」
「それは、わかります」


紗弥が両親に寄せている信頼は、普段の会話から十分に伝わってくる。
それは、多分言い表せられないくらいの愛情を受け取ったからだろう。


「でもね、親の私達でさえ接することに迷いがあった程のあの子に、他の人が接することなんてできなかったの」
「……」
「遠くから見られるだけで、誰もあの子に近付こうとはしない。それが嫌な視線じゃなくて、紗弥のためにと思ってくれた行動だって分かってるから文句も言えなくて…、紗弥は気にしていないみたいだったけど、私達にはどうしてもやれないそれが悔しかったの」


思い出して辛そうに話す姿に、誰も関わろうとしなかった頃の紗弥を思い出した。


「私ね、いつも聞くの。今日は一日どうだった?って」
「…はい」
「毎日毎日、今日はちーちゃんがああだった、こうだった、くらいしか話さなくて。答えさせるのも申し訳なくなるくらいの同じ答えばっかりなの」


でもね、とお母さんは今までの辛そうな表情を一変させて、嬉しそうだけど泣きそうな微笑みをこちらに向けた。


「あの日、友達ができたって嬉しそうに、恥ずかしそうにあの子が報告してくれたことが、本当に嬉しかった」


ドキ、と胸が鳴った。お母さんのその言葉が、どうしようもなく嬉しかった。


「あの日からあの子の表情も環境も驚く程変わって、毎日幸せそうにあなたのことを話すのよ。…お父さんは男の子の友達って聞いて複雑そうにしてたけどね」


おどけて言われた最後の一言にピタリと固まっていると、大好きな娘が幸せそうにしてて、本当は感謝しているし嬉しいのよ、と笑いながら続けられて思わず俺も笑みが零れた。


「…だから、あの子と友達になってくれてありがとう」
「……はい」
「紗弥のこと、これからもよろしくお願いします」


ふんわりと微笑んで告げられた言葉に、俺は真剣に頷いた。



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