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「紗弥先輩っ、丸井先輩と部長はー?」
「…赤也。おまん名前言うたらいかんじゃろ」
「あ……」
仁王の言葉に、赤也は慌てて口を抑えた。
「幸村君はさっきからお話してるし、実は昨日も会ったんだよ」
「え!?そーなんスか!?なーんだ、部長がびっくりすると思ったのに」
「…十分びっくりしてるよ」
「丸井君もこの間お話したし…ですよね?」
「あっ、お、はいっ」
ブン太の返事を聞いた途端、全員一斉にブン太の方を向いた。
「…丸井、そんなことは聞いてないぞ?」
「あ、いや、だって…。なんか夢かと思ったんだよぃ」
「まあ、わからんことはないがのう…」
「そ、それにジャッカルがなんかごまかすようなこといっぱい言ってた!!お前、やっぱ嘘だったんじゃねえか!!」
「あー…」
ブン太に向けられていたはずのきつい視線がこちらに飛び火してきて、思わず目を逸らした。
(まあ、実際嘘ついていたのは本当だから言い訳もできねえけどよ…)
きつい視線をどうすべきか悩んでいた時だった。
――――コン、コンッ
扉がノックされた音が響き、幸村が返事をした後にゆっくりと扉が開いた。
「っ、え!?」
綺麗な女の人が入ってきたな、と思った瞬間、紗弥の驚いた声が聞こえた。
「紗弥、知ってる人か?」
「え、あ、えっと…」
「もう…、やっぱりこんなところにいた。飲み物買ってくるって言って帰ってこないから心配したじゃない」
「え?…あ、忘れてた」
紗弥が慌てている姿に首を傾げていると、女の人がこちらを向いてふんわりと微笑んだ。
「突然お邪魔してごめんね?初めまして、紗弥の母です」
「「「…え……?」」」
俺も含め、全員がしばらく言葉の意味が理解できなかった。
「…えっと、母です」
「白神様の、お母様…?」
改めて紗弥の口から紹介され、ようやく理解した。
(紗弥の、お母さん…。紗弥を、産んだ人……)
紗弥のお母さんは流石と言えるくらい綺麗で若くて。
それでも、改めて目にすると、紗弥が誰かから産まれてきたなんて実感が湧かなくて。
「えっと、ね。お母さん、こちらがジャッカル君。それと、ジャッカル君の部活の人達だよ」
柔らかく笑いながらされた紹介に、慌てて頭をさげる。
「ジャッカル君…?会いたかったのよ、初めまして」
「は、初めまして」
「ねえ、ジャッカル君。少し私の部屋でお話しない?えっと、幸村君?紗弥を置いていてもいいかしら?」
(……え?)
「え、は、はいっ」
「お母さん!?」
「いい子にしてるのよ?ジャッカル君、行きましょう」
「は、はい…?」
頭が混乱したまま、連れられるがまま俺は幸村の病室を後にした。
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