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「はあ…」


熱を冷ますように自販機の前で溜め息をつく。


(みんなの言葉じゃなんとも思わないけど、お母さんの言葉だけすごく動揺する)


“好きかも”という思い込みでジャッカル君を見ても、正直よくわからない。
ジャッカル君はいつも通り、私を一人の友達として接してくれて、ただそれが嬉しくて。


(私、前世で恋とかどうやってしてたんだろう)


彼氏がいたことはないけど、人並みに好きな人はいた。
でも、その時の誰よりジャッカル君が大切だけど、恋愛として好きなのかはわからない。

それは、今までの恋が恋じゃなかったのか、それともジャッカル君を100%友達として好きなのか。


(好き、って感情がわからないんですよ、お母さん)


そんなことを考えていたからだろう。前方から人が走ってくるのに気付かなかった。


ドンッッ


「うわっ、あぶねっ!!」


突然肩にきた衝撃に思わずよろけると、ぶつかってきた相手が支えてくれた。


「すんませんっ、急いで…て…」
「こ、こちらこそごめんなさいっ。前見てなかったです」


慌てて体を離して頭を下げた。


「……白神、様…?」
「え?」


急に呼ばれた名前に顔をあげると、そこにはくせっ毛の髪の男の子がいた。


「うわ…っ、白神様ッスよね!?こんな近くで初めて見た!うわーっ、感動ッス!!」
「え、あ、え?」
「あ、いきなりなんだって話ですよねっ!?俺立海2年の切原赤也って言います!!」
「あ、えっと…テニス部の切原君、かな?」
「知ってるんスか!?感激ッス!!名前でいいッスよ!」
「あ、赤也君?…えっと、私も、名前でいいよ…?」
「マジッスか!?よろしくお願いしますっ、紗弥先輩っ!」


な、なんというか。赤也君って芸能人見ると遠巻きにせず話しかけちゃうタイプなんでしょうね。いや、無邪気で可愛いですけども。

14年間この容姿で生きてきて、こんな接し方されたの初めてですよ。


「あ、じゃあ部長とかも知ってます!?」
「うあ、えっと、幸村君、だよね?」
「そうです!今日レギュラーで部長の見舞いなんですけどね?今日に限って英語の補習で先輩達俺置いて行くんスよ!?ひどいでしょ!?」
「あ、はは…」


どうしましょう。どうしていいかわからないのですが。


「そうだ、時間あります!?」
「え?」
「部長が紗弥先輩の大ファンなんスよ!!よかったら見舞って励ましてあげてくださいっ」
「え、うあっ、わ、突然悪いよ!?」
「そんなことないですって!」


にっこりと笑いながら既に腕を引きはじめた赤也君を止めることも出来ず、足の早い赤也君についていくだけで精一杯だった。

…どうしてこうなったんですか。


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