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「遅くなって悪いな、ほらケーキだ」
「お!…ん?いつものとこと違くねえ?」


幸村の病室に入ってケーキを差し出すと、ブン太が真っ先に反応した。


「へえ、初めて聞くお店ですがとても美味しそうですね」
「ええ店知っとったのう」
「あ、いや。一緒にいた奴に教えてもらったんだ」


そう言った後一斉に視線を感じて、言わなければよかったと後悔した。


「箱に書いてある住所、ここのすぐ近くだね」


落ち着いた幸村の声が聞こえ、そちらを向くと、冷たい視線と目があった。


「病院って学校から距離あるよね。こんなところまで一緒に来れる人って限られるよね?」


なぜか背中に冷たい汗が伝い、無意識にごくりと唾を飲んだ。


「昨日さ、白神様に会ったんだ。お母様が隣の病室に入院されてるんだって。ジャッカル、知ってた?」
「あ、いや、えと…」
「そういえば柳から聞いたんだけど、白神様に妙な噂があるようだね。I組の奴らと親しくしているとか。ねえジャッカル、それほんと?」


最早笑顔もない幸村に答える言葉が見つからない。
他の奴らも異常な空気にこっそりと俺と幸村を伺うだけだ。


(というか、既に噂回ってたのか)


「ジャッカル?」


幸村の声に、掌をぎゅっと握りしめた。



――――――――


「お母さん、来たよ」
「はーい、…あら?ケーキ!?ここの大好きなのよねーっ」


手に持ったケーキの箱にいち早く反応したお母さんに、思わず苦笑が零れた。


「…なーんか、紗弥嬉しそう」
「え?」
「何かいいことあった?」


笑顔で尋ねるお母さんの言葉を考えて浮かんだのはひとつ。


「ジャッカル君と一緒に病院来たからかな?初めて学校の外で一緒だったし」
「ジャッカル君!?病院にいるの!?」
「隣の病室の幸村君が部活の部長さんで、そのお見舞いだって」
「あの綺麗な子?へえ…。ねえ、ジャッカル君呼んでよ。会ってみたいわ」
「何言ってるの。…帰り迎えに来てくれるって」
「そうなの?いい子ねー…」


嬉しそうに話すお母さんに笑っていると、お母さんの笑顔の種類が変わった。


「…何?」
「自覚した?」
「?…っ、違うってば!…飲み物買ってくるっ」


思い込みはしてるけど、自覚とかじゃないです。

恥ずかしくなって、お母さんの笑い声を背に病室を出た。


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