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--幸村side--
つまんない、つまんない、つまんない。
なんで俺、入院なんてしてるんだろう。
部長になったばかりなのにテニスもできない。
休んだまま進級しちゃって、学校のことも何もわからない。
焦る要素はいくらでもでてくる。
(それに……)
彼女に会えない。
会う、というより見るという方が正しいけれど。
勝手に崇拝して、喋ったことすら一度もない。
たまに廊下ですれ違うだけで幸せだったんだ。
(もういつから姿を見れてないんだろう)
ため息をつきながら病室のドアに手をかけた時だった。
“―――ね、――――ん”
微かに聞こえた声を、俺が間違えるはずがない。
慌ててドアを勢いよく開けると、目の前には目を見開いた彼女がいた。
(…う、そだろ…)
目があったものの、俺は口をぱくぱくさせるだけで声なんて出なかった。
固まったまま立ち尽くしていると、彼女はふんわりと微笑んだ。
(白神様と、目があってる。白神様が、微笑んでくれてる。俺と、…俺に)
「…幸、村君?」
「〜〜〜〜っ、」
俺の名前、を呼んだのか?
聞き間違えじゃなくて、確かに…
「お、れの、名前…っ」
「幸村君ですよね?よく聞くから、知ってました。この病院に入院してたんですね。お体は大丈夫ですか?」
「ぅあ、っは、い」
名前を知っていてくれた!入院していることまで!身体の心配までしてくれた!
「白神、さ、まは、なんでここに…?」
「母が入院してるんです。大したことなくて1週間だけなんですけど。…隣の病室みたい、ですね。何かあったらよろしくお願いします」
それじゃあ、お大事に、と笑顔で去って行った白神様を俺は呆然と見送った。
初めて、入院してよかったと思えた。
1週間、彼女はきっとまたここに来る。
次は絶対ちゃんと話すんだと心に誓った。
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