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「あのね、あんまり意識なかったけど、悩んでたわけじゃないんだよ」


間違えないように、誤解させないように、という気持ちが全力で伝わってくるくらい、紗弥は丁寧に話し始めた。


「悩んでない…?だって、思いつめたような顔してたぞ?」
「そこから勘違いなの。そう見えちゃったかもしれないんだけど、えっと、ただの寝不足で」
「…寝不足?え?」


恥ずかしそうに話す紗弥に、思わず聞き返した。
寝不足って、は?


「だからぼーっとしちゃってて、話しかけてもらってもあんまり意識はっきりしてなくて。正直、今日あんまり誰かと喋った記憶がないの」


ごめんなさい、と申し訳なさそうに俯く紗弥に戸惑いを感じながら口を開いた。


「なんで、そんなに寝不足なんだ?」
「昨日ね、ジャッカル君と別れた後に母が倒れたって連絡がきて…」
「は!?」
「ただの過労だったんだけどね。入院の準備とか手続きとかしなきゃだし、父は料理以外ダメだから家事をしたり、あと普段母がやってるお店の経営管理をしたりで寝る暇なくて」


苦笑いしながら話す紗弥を俺は呆然と見つめた。


「…じゃあ、昼休みは…」
「すっごく眠くて、お喋りができる状態でもなかったし、寝たかったから…、そんな人の横にいたらジャッカル君が退屈でしょう?」


その言葉に、俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「……よかった」
「え?」
「あ、いや、良くないよなっ!!紗弥のお母さんが大変なわけだし」
「あ、それは全然大丈夫だよ。大事をとって療養も兼ねて1週間入院するらしいけど、すっごい元気だよ」
「そっか、じゃあ本当によかった…」
「……?」


不思議そうに俺を見つめる紗弥を見て、恥ずかしさとか全部捨てて口を開いた。


「紗弥に嫌われたかもって、めちゃくちゃ不安だったんだ」
「う、あ…。そんなこと、絶対ないのに」


照れたように笑う紗弥につられて俺も笑った。


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