08
「紗弥、」
昼休みを迎え、俺は緊張しながら紗弥に声をかけた。
しかし紗弥には何の反応もなかった。
(…避けられてる?……いやいや、聞こえてないだけかもしれねえし!)
「…紗弥、……紗弥っ」
「っ、うわ、は、はいっ」
少し大きめに声をかけると紗弥は肩をびくつかせて振り向いた。
(…聞こえてなかっただけか)
その様子にほっとしながら、紗弥に笑いかけた。
「飯、行こうぜ?」
いつも通りに声をかけ、戸惑いながら笑って頷く紗弥の姿を想像していた。
しかし、返ってきたのは予想外の答えだった。
「…あ、ごめんなさい。今日は一人で食べても、いいかな…?」
苦笑混じりに返された言葉に、俺はぴしりと固まった。
「…な、なんかあるのか?」
「何にも、ないよ。誘ってくれたのに、ごめんね?」
じゃあまた後で、と鞄を持って教室を出た紗弥を、俺は呆然と見送った。
(…え、まじで避けられてる?)
頭を過ぎった考えに、どうしようもない焦燥感に襲われた。
『…え、ジャッカルなんかしたの?』
驚いたクラスメイトの声が聞こえた。
何もしてない、と思う。
昨日テニスコートでは笑顔で別れた。
その後、テニス部のファンに何か言われた…?
いや、紗弥に文句を言う奴などこの学校には存在しない。
『ま、まあ、今日は俺らもまともに会話できてないしよ!ジャッカルだけじゃねえって!!』
そうだ、それだけがまだ救いだ。
俺だけが避けられているわけじゃない。
でもそれは、
(俺も他の奴らも、同じだってことだよな)
ただ守りたいと思って友達になった。
近い存在になりたいとか、そんな気持ちは全然なくて。
でも、まだ1週間と少しだけど、紗弥のことを知って、もっと仲良くなりたいと何度も思った。
一番近く仲の良い友人だと思っていた。
図々しいとかそういう考えが頭を過ぎった。
(やっぱり、友達ってポジションも俺には図々しかったか…?)
自分が何かしでかしてないか、頭の中で振り返りながら、俺は久しぶりに一人で飯を食った。
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