07
テニスコートを出てそのまま家に帰った私は、お店の扉を開けていつもと雰囲気が違うことに気が付いた。
(今日、は営業日ですよね…?)
「ただいまー。…お父さん、お母さん?」
営業時間内だというのにお客さんはもちろん両親の姿すら見えない店内は異様な空間に思えた。
首を傾げて厨房を覗きこんで見つけた1枚のメモに、私は固まった。
―――――――
昨日の放課後、紗弥の件はどうにかごまかせた。
ブン太がぼーっとして状況把握できていなかったことと、他の部員がまだ部室にいたことが幸いした。
そのことはとりあえずI組の奴らに報告するとして、今の問題はそこじゃない。
(…紗弥がいない)
俺が朝練が終わって教室に戻る時は大抵既に学校に来ているはずの紗弥が、今日はあと5分でHRが始まるというのにまだ来ていない。
こんなことは初めてだし、他の連中も不思議そうにしている。
『…おーい、席つけ。HR始めるぞ』
『先生、紗弥は休みですかー?』
『ん?ああ、白神なら「お、遅れて、すみませっ」…おー、白神。連絡もらってたし大丈夫だ。というか、走ってきたのか?』
「あ、はは…」
HR開始とほぼ同時に教室に入ってきた紗弥は、かなり急いできたのだろう、息を切らしていた。
「はよ、珍しいな?」
「あ、おはよ。…ちょっとね」
紗弥は苦笑を零して言葉を濁らせたまま、それ以上話すことなく前を向いていた。
『…ジャッカル』
「なんだ?」
『紗弥おかしくない?』
休み時間にクラスの奴から呼び止められ、疑問を投げ掛けられた。
今日の紗弥は俺や他の連中と話すこともなく、何かを考えこんでいるようだった。
『しっかし、最近はほわほわ可愛いってイメージだったけど、あんな表情されるとドキッとするわ』
『わかる。アンニュイっていうの?あの綺麗な顔に似合いすぎだよね』
…確かにあの容姿に何かを考えこむ表情は見事にはまっている。
でも、あれは考え込むというより…
(思いつめている…?)
『とにかくさ、ジャッカルに話さないんだったら私らにも話さないだろうし。何かあったのか聞いておきなさいよ』
「…おう」
そうは言うが、今日は俺が何回話しかけてもまともに会話は続いていない。
…流石に結構へこむぞ。
(とりあえず、昼飯の時にゆっくり聞くか)
▼