06



部室で着替えてコートに向かうと、いつもと違うざわめきが聞こえた。

不思議に思って近寄ると、そこにいたのは紗弥とブン太。

慌てて声をかけると、ノートを届けてくれたらしい。


(テニス部に近寄らせないようにしてたのに…、担任もわざわざ紗弥じゃなくてもよ)


隣でブン太は完璧固まってるし、と思っていたら紗弥が急に黙りこんだ。


「…紗弥?」
「あ、ごめん!!考え事してた」
「考え事?」
「うん、ジャージ姿初めて見るなあって」
「…あ、そうなのか?」


まあ今までテニス部を見に来るなんて絶対なかっただろうしな、と思っていると、予想外の言葉を告げられた。


「すっごく似合ってるねっ、見れてよかった」
「…っ!?え!?」


…は?え、は!?

言われたことを頭の中で繰り返し、理解した瞬間顔が真っ赤になるのがわかった。


(〜〜そんな笑顔で、ストレートに言うのは反則だろ!!)


…紗弥は無自覚でサラリとそういうことをするからタチが悪いんだよな。

普通恥ずかしくて言えないようなことも、簡単に言ってしまうのが紗弥だ。


そうして紗弥が去って行くのを見送った後、固まったままだったブン太が意識を取り戻した。


「……っ、え!?今、白神様…っ!?」
「あ、ああ。そうだな」
「白神様、ジャッカルにって…!?」
「あー…っと、担任から頼まれたらしいんだ!!ほら、彼女俺なんかにも親切だなんて流石だよな!!」


(ごまかせる限りごまかしとこう…!ブン太にバレたらテニス部全員にバレる!!)


「え、いや、でもよぃ、…お前のこと、ジャッカル君って…名前で…?」
「ほら!!あれだ、俺のこと苗字で呼ぶ奴ほとんどいねえじゃねえか、多分そっちしか知らなかったんじゃねえかな!?」
「っていうか、ジャッカルも名前で呼んでなかった、か…?」
「っ、お前、緊張しすぎて夢見てたんじゃないか?あの人を名前でなんて呼べるわけないだろ?」
「そ、そうだよな…?あ、でもよ、俺の名前お前から聞いたとか言ってた気がするぜぃ!?」


(…そんな話までしてたのか!!ってかそれ今日の昼の話だよな!?うわ、俺馬鹿か…!!)


「気、のせいだろ!!ほら、表彰されたりしたので知ってたんじゃないか!?すげえじゃんブン太!!」
「お、おう…!?」


どうにか流せた、か?
とりあえず、ブン太がテンパってて助かったな。

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