02



--柳side--

「なあなあ、聞いたかよぃ?」
「なんじゃブンちゃん」
「丸井が言いたいのは、彼女の噂のことだろう?」
「そう!!流石柳!!」


最近立海ではひとつの噂が流れている。


“白神紗弥の様子が変わった”


正確には今のところ、彼女自身が変わったというより彼女の周りの人間が変わったという方が強いらしい。

元々校内でその姿を見ることは少なかったが、最近では更に少ないようだ。

この噂が流れて俺は一度だけ彼女の姿を確認したが、それはI組の女子に囲まれて行動するところだった。

今まで誰も彼女に近付けなかっただけに、その光景は噂になるには十分なものだった。

何がきっかけなのかは俺にもわからない。
彼女のデータをとるなど、失礼で恐ろしいことは今まで一度もしたことがなかった。


「そのような噂があるのですか。知りませんでした」
「俺も今初めて聞いたっす。そんなにまだ広まってないんすかね?」
「かもなー、俺も聞いたのついさっきだしよぃ」
「噂などくだらん。I組が関係しているのならば、ジャッカルにでも聞いたらいいだろう!」
「…いや、それはまだ止めた方がいいだろう」


弦一郎の言葉に、そうだな!!と騒ぎ始める丸井達を見て、俺は口を挟んだ。


「…なんじゃ。なんか理由があるんか、参謀?」
「いや、可能性としての話にすぎないのだが。何しろデータ不足だからな」
「だーかーら、なんなんすか!」


焦れったそうな赤也を宥め、再び口を開いた。


「今回の噂にI組が何か関係しているのは間違いないだろう。しかし噂の回るスピードの遅さから、何か隠していると考えるのが妥当だ。そうでなければ彼女の噂が回らないはずがない。」
「…まあ、確かにそうですね」
「でもそれなら尚更ジャッカル先輩に聞いたらいいんじゃないすか?」
「クラス単位で何かを隠しているのなら、責任感の強いジャッカルがそう易々と口を割るとは考えにくい」
「そんなん問い詰めれば一発だろぃ?」


丸井の言葉に少し呆れつつも、俺は言葉を続けた。


「それが、彼女の希望からの行動だとしたらどうする?」
「「「え?」」」
「彼女が訳あってI組に何かを隠すように頼んだとする。彼女の願いを聞かない奴などいないから、簡単にこの噂の説明がつく。それを無理矢理暴いたとすれば、」
「…白神様の意思を無下にすることになるのう」


仁王が導き出した答えに全員が青ざめた。


「…そういうことだ。もう少し噂の様子見としよう」

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