03
ざわめく教室を後に、俺達はベンチへ向かった。
(これは……)
誰も近寄らない場所。
日当たりが良く、心地好い風が吹いた。
紗弥の白い肌に太陽の光がキラキラと反射し、長く綺麗な髪は静かに揺れた。
(……こんなん見ると、神聖なものってイメージはやっぱ崩れねえな)
「…ジャッカル君?」
「あ、悪い」
「…迷惑じゃ、なかった?やっぱり私なんかより、お友達と食べた方が…」
心配そうに問い掛けてくる紗弥に思わず呆れた。
(紗弥が“なんか”だったら俺らはどうなんだ)
「…あのな?俺らも、“友達”だろ?」
そう言った俺の言葉に、紗弥は俯いて恥ずかしそうに笑った。
「…ありがとう」
「…どういたしまして。飯、食おうか」
お互い照れを隠すように弁当を開いて、雑談をしながら昼食をとった。
「……どうかした?」
「え?あ、ああ…。食べ方綺麗だなと思って」
紗弥の食す動作は綺麗に流れて、思わず見とれた。
視線を感じたのだろう、見すぎたか。
「食べ方はね、小さい頃から厳しく躾られたの。父が料理をする人だから、食に関することはうるさくて」
苦笑しながら話す紗弥を見て、高級そうな店が浮かんだ。
…親父の店とは違うんだろうな。
ごちそうさまでした、と手を合わせる紗弥の声を聞いて俺も弁当を片付けた。
「この後はどうしてるんだ?」
「えっと…、あ、きた!!」
(きた?何がだ?)
紗弥の視線を追うと、そこには茶色の猫。
「猫…?」
「ちーちゃん、こんにちは」
(ちーちゃん…!?)
「今日も綺麗な毛並みだねっ、ふわふわだあっ!今日は何してたの?あ、裏庭に行ったでしょう?あそこの草はくっつきやすいよね」
目の前に繰り広げられる光景はなんなんだろう。
見たことがないくらい紗弥は目を輝かせて猫を撫でまくっている。言葉遣いや声色も、俺と話している時とは全く違う。
(これは…、俺の存在を忘れてるな)
寂しく思うところなのかもしれないが、本当に1時間弱で崩れ去った紗弥のイメージとのギャップに、可愛いとしか思えずに笑いがこぼれた。
「…〜っふあっ、ん、やだっ、くすぐった…っ」
…前言撤回。
その容姿でその声は止めてくれ!!
猫に夢中な紗弥の隣で、俺は必死に悶えと赤面を抑えていた。
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