05




(時間が余ってしまった)

白神さんはもちろん、俺も真面目に授業を受けていた分、他の奴らよりプリントの終わりは早かった。

くっついた机をどうすべきなのかも判断しかねていた。


「あ、の…。教科書、本当にありがとうございました。助かりました」
「え、あ、いや!!全然!!」


向こうから話し掛けられるとは思わなかった。というか、さっきも聞いたお礼をもう一度丁寧に言われるとは思わなかった。


(……折角の時間だし、うん)


「……あの、聞いていいですか」
「はい、なんですか?」
「教科書、どうして誰かに借りなかったんですか?」


白神さんはギリギリに授業の準備をするタイプではないだろう。教科書がないことくらい、休み時間中にわかっていたはずだ。


「え、と……」
「あ、なんか余計なこと聞きましたか?…白神さんだったら貸してくれる人たくさんいると思ったから」


白神さんに頼まれて断る人なんていないはずだ。むしろ喜んで渡すだろう。

そう思ったのに、彼女は俺の言葉に首を横に振った。


「貸してくれる人なんて、いないです…」
「いやいや、そんなはずないですって!!」
「その……、私、友達いないから」
「え……?」


俯いて恥ずかしそうにしている彼女を見て思わず絶句した。

友達がいない?
こんな美しすぎる人に?

そう考えた時はっとした。
確かにこの学校には彼女を崇拝する者は多くいるが、彼女と親しそうに話す人を見たことはない。

というより、彼女の声をこんなに聞いたのでさえ入学式の挨拶以来だ。

遠い存在として扱ってきていたのだ。
彼女はこんなに近くにいるのに。


「…じゃあ、困った時今まで誰を頼ってきたんですか?」


入学直後から崇拝されていた彼女。
学校生活で不慣れだったこともあったはずだ。
そんな時、この人は誰を頼っていた?
誰に助けを求めていた?


「助けてもらうなんて、考えたことないです。一人でいるのは、もう慣れたから」


曖昧に微笑んだ彼女を見て、俺はとにかく必死だった。


「俺とっ、友達になろう!!」



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