03
「白神さんでも、忘れ物とかするんですね…」
思わず言ってしまった言葉に、白神さんはキョトンとした顔をこちらに向けた。
……どんな顔でも美しいってすげえな。
「…私、そんな大した人間じゃないですよ」
「え?いや、そんなことな…」
そんなことない、と言いかけてやめた。
どれだけ普段完璧でも、確かに今俺の目の前にいる彼女は忘れ物をしてしまっているわけだ。
「……机、そっちにやってもいいですか?」
「え?」
「教科書、ないんですよね?俺の、一緒に見ませんか」
内心ドキドキしながらした提案に、彼女は心底驚いたように大きな目を見開いた。
しかし、すぐに
「ありがとう」
と美しすぎる笑顔で微笑んでいた。
――――――――――
席替えがあろうとなかろうと、私には関係なくて。
だって誰の隣がいいとかないですからね。
いざくじを引くと前と同じ窓際一番後ろ。
ここは大好きな席だ。
話す人がいない私にとって、外の風景や教室内の状況が見渡せるこの席はいい暇潰しになる。
隣に座ったのは、ジャッカル桑原君。
そういえば、キャラクターとこんなに近くにいるのは初めてかもしれない。話さなければ関係ないけど。
それから3日が経った今日、4限の授業の教科書を忘れた。
(借りれる人がいないから、チェックは慎重にしてたつもりなんだけどな…)
溜め息をついて、今日の授業はノートを写すことに専念しようとしていると、突然隣から声がかかった。
驚いて振り返ると、まあそこにいたのはもちろん桑原君。
(話し掛けられるなんて思わなかった…)
ひどく緊張したように話されて、こちらも身構えてしまう。
「さっき、なんか落ち着かない感じだったから…」
言われた言葉に思わずびっくりして固まった。
(え、え?見られてたの?恥ず……っ!!)
慌てて教科書を忘れたことを説明したが、上手く喋れた気がしない。そりゃそうだ、何年ぶりに同級生と喋ったと思ってるんですか。
その後、あたかも完璧人間のような扱いを否定すると、予想外の提案を受けとった。
(やばい、嬉しいかもしれない)
人と関わることを諦めていた私にとって、桑原君の言葉はとても温かかった。
久しぶりに、心から笑顔になれたかもしれないと思う。
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