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[bkm] 少しだけ、懐かしい話をしよう。 「仁王がいない…?」 そんな会話が出てきたのは、大学に入学してすぐのGW。赤也の様子やみんなの近況報告も兼ねて集まろうと俺が声をかけていた。 「…それは、今日来れないとか、そんな意味じゃないよね?」 「だったらいいんですけどね…」 「仁王の奴、立海大にいないんだよぃ」 仁王の行方がわからない。そんな言葉を聞いたのはその日が初めてで、俺と同じように目を丸めているのは赤也と真田、ジャッカルだった。 「…待って、意味がわからない。だってあいつ、外部受験してないよね?」 大半が内部進学をする立海では、外部受験生だけの指導授業がある。まさに俺が受けていたもので、その授業で仁王の姿を見かけたことはなかった。 「センターの日も普通に登校してたからそれはねえ」 「じゃあ、就職…?」 「それもないだろう。就職セミナーで見たことがない」 真田が警察官になるからと進んだ就職コースにもいなかった。 となれば、やはり立海大に進むとしか考えられない。 「当然いるだろうと思っててさ。前に立海大の資料で建築学科とか見てたし、そっちにいるだろうって思ってたんだけどよぃ」 「校内で一切すれ違わないことに確かに疑問はあったのですが…」 「あいつは元々まめな方ではないからな。メールの返信がこないことも深く考えていなかった」 苦い顔をして話す3人の話をただ聞くしかできない俺たちはただ呆然とするだけで。 「今日の連絡、幸村君から頼まれて俺がしてたじゃん?流石に返事返してこないことに苛ついてさ、建築学科まで押しかけたわけ。まあ、もちろんいなかったんだけど」 あいつ学校来てんの?って、建築学科にいた元クラスメートに聞いたらさ、不思議そうな顔で言われたんだよ。 「…仁王は建築学科にいねえけど?って。学科名簿見せてもらって、何度確認してもそこに仁王の名前なくて。焦って柳と柳生のとこ行ってさ」 「全学科の名簿を何重にも確認したが、なかったんだ」 立海大の学生の中に、仁王雅治という名前が。 「…え、じゃああいつは、今どこにいるんだよ…?」 全員のわかりきった疑問でも、口に出さずにいられなかったのだろう。ジャッカルの声が虚しく響いた。 「…出席日数足りなくて、実は卒業できてないとか」 「…仁王先輩が同じ学年にいて、気付かない程バカじゃないッス…」 わかっている。卒業式の日、仁王は確かに俺らと同じくして名前を呼ばれ、だるそうに返事をしていた。 「…私達に、行方すら教えたくなかったのでしょうか」 ぽつりと、悲しそうに、悔しそうに呟いた柳生の声が頭から離れないまま、久しぶりの再会に盛り上がるはずだったその会は幕を閉じた。 prev next back |