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05



[bkm]



「ん?幸村君から連絡入ってる」
「部長?合宿中じゃないんスか!?」
「今日の飲み会参加できねえこと嘆いてたしな。…ほら、テレビ電話できるかって」
「ああ、それならこのパソコンを使うといい。スマートフォンじゃカメラが見辛いだろう」
「柳君、真田君の家にパソコンまで持ってきたのですか?」
「どうせこの面子で集まれば調べ物をするだろうと思ってな。弦一郎の家のパソコンではスペックが低すぎるだろう」
「む…、あれは兄様からのおさがりの」
「ほらほら、真田。幸村が連絡があるっつってんだからその辺にしとけって、な?」


2年半前から毎月恒例となっている立海テニス部の集まり。流石に毎回全員が揃うこともなく、今日も幸村君がゼミの合宿で不在ながらも、珍しくそれ以外の全員が揃うことができて…、ああ、違いました。2年半前からいない、仁王君を覗いて、全てのメンバーが揃った会。

そんなに揃うのは久しぶりだと、参加できないことに嘆いていた幸村君を宥めていたことは記憶に古くありません。
こちらの状況は?と連絡がくることにも特別違和感もありませんでした。
電話ではなく、テレビ電話ということは多少珍しくありましたが。


「お、繋がったぜぃ。おーい、幸村君!」
『やあ、ブン太。ああ、全員揃っているね』
「合宿、どうッスか!?」
「精市がテレビ電話とは珍しいな。何かあったか?」
「まさか、合宿を抜け出してサボっているのではなかろうな」
『ふふ、サボったりはしてないよ。俺は買い出しに町に来ているんだ。合宿はなかなか面白いかな。こちらでしか見れない植物も多くて興味深いしね。ただ、とてつもなく田舎でね、町まで歩いていこうとしたんだけど、とてもじゃないけど歩ける距離じゃなかったんだ』


面白いことを嬉々として語る幸村君、は何度も見ている。だけど今日の幸村君は、どこか悪戯な声色を含んでいて。隣にいるジャッカル君が、幸村どうしたんだろうな?と問いかけてきたことにも頷くしかできなくて。


「それで、精市。俺の問いには答えてくれないのか?」
『ふふ、柳はせっかちだね。…そして、やっぱりよく気付くね』


なんでしょう、この胸騒ぎは。悪いことではなく、嬉しいことが待っているような。知りたい、でも、知るのが怖い。


『…ってことでさ、ほら、出てきなよ』


一旦カメラから離れたのであろう足音と、奥で何かを言い合う声。がたがたと響くノイズ音に、何が起きているのかという気持ち半分、全員が何かがあるのだと悟り顔を見合わせる。


『みんな、怒る準備はいいかい?』
「…は?」


怒る準備、彼は確かにそう言った。ものすごく笑顔で、出てくる単語ではなかったと誰かの聞き返すような声がこだまする。


『ほら、…仁王』


ドクン。
心臓が跳ね上がる。

聞き間違いだろうか。幸村君の口から聞こえた、聞きなれた声から発された、馴染み深すぎる名前は。


「に、おう…?」


ガタガタと音が鳴り、幸村君が画面に引っ張りこんできた人物を、私の脳は素直に受け入れきれていなかった。


『…あー…久しぶり、じゃの。おまんら』
『え、何それつまんない。面白いこと言えよ』
『いや、じゃっておま、こんなん聞いとらんぜよ!』
『だから言っただろ?俺はお前を許してないって』
『もうやじゃ、めっちゃ恥ずい』


ちょっと、待ってください幸村君。隣にいる人と、なんでそんな、普通に話して。というか、隣にいる人は、私の見間違いではなければ、


「に、おう、くん…?」
『…ん、やぎゅ、久しぶり』
「におう、君、…仁王君、仁王君!!」
「っ、え、ほんとに、仁王先輩」
「ちょ、待って、何、何が起きてんの」


思わず叫んでしまったことすら気にもならず、柳君や真田君すら驚いて画面に詰め寄って、目の前の画面に映る彼にただただ頭がついていかずに呆然として。


『…なんか、どうすればええんこれ』
『だーから、怒られとけばって』
『じゃってこいつら固まっとる』
『言っただろ?2年半、柳や真田をこんな表情にさせて、ジャッカルや赤也が固まって、ブン太や柳生を泣かせちゃうくらい、お前は俺達に心配をかけさせたんだよ』


画面越しに聞こえる会話にハッとして顔に手を当てると、頬を伝う涙の存在に気付いた。


『…心配、かけて、すまんかった』


照れくさそうに、気まずそうに、変わらない銀色の髪を掻いて、聞きなれた口調で話す画面越しの彼。
幸村君に促されて、いなくなった理由を話す仁王君に、言いたいことはいっぱいあったはずなのに何も出てこない言葉。


『……てわけでな、何も言わずにおらんくなったことに関しては、謝る。ほんま、すまんかった』
「うぅ、仁王せんぱ…っ、まじで心配したんスから…っ!」
「本当にな。この柳蓮二のデータを持っても見つけられないとは」

「ったく、俺を心配させた罰で今度の飲み会は仁王の奢りな!」
「ふ、仁王がいなくなったって知って、顔面蒼白で報告してたくせに」
「うっせぇジャッカルのくせに!」

「たるんどる、と説教したいのは山々だが。画面越しでは伝わるもんも伝わらんだろう。そちらで幸村に存分に叱ってもらうとして、帰ってきたら覚悟しておけ」


『ふふ、よかったね仁王。真田からの許しも出たし、説教していいんだってさ』
『…お前さん、そろそろ合宿所に戻りんしゃい』
『っと、確かに。いい加減戻らないとまずいかな。じゃあ、そろそろ切るよ。言い残したことはないかい?』


言い足りないことはある、2年半も空白の時間があったのだから、こんな10分20分のテレビ電話で足りるはずがない。だけど、幸村君の時間を割いてまで話すことなのかと全員が複雑な表情で首を横に振っていました。


『柳生』
「…え?」
『柳生、お前さんから、まだ俺は責められとらん。一番俺を心配してくれとったんは、柳生だったんじゃと、思っとったんじゃけど』


責めてもくれんくらい、怒っとるん?
気まずそうな声で、なのに真剣な顔で、画面越しに合う視線に思わず目を逸らす。


「…帰って、くるんですか?」
『…いや。それはなか』


私達の会話に驚いた表情をする皆さんの視線を無視し、画面の仁王君を睨みつける。
仁王君の隣にいる幸村君は、多分なんとなく察していたのでしょう。きっと私達が聞いたより深い事情を聞いているのだと思います。

先程から気になっていた。真田君が発した帰ってきたら、という言葉。次がある、ということが当たり前のような皆さんの口調。
でも、やはり君の言葉の裏の気持ちを読み取ることに関しては、私が一番のようですね。


「そんなことだと思いました。君の帰る場所は、もうそちらになっているんでしょう?」
『さっすが柳生じゃの。…おん、もう、俺の居場所はこっちじゃ』
「ちょ、待てよぃ!じゃあ仁王にはもう会えねえってことかよぃ!?」
『遊びに、行くぜよ。ブン太』
「…ええ。私達も、遊びに行きますよ。仁王君」


敵わんのう、と笑う仁王君に、やっと私からも笑みが零れる。
メールも電話も繋がらないあなたに、あなたが苦手だと言っていた手紙を送ります。

顔を見ることができなくても、あなたがどこかに居てくれているだけで嬉しいと言えば、君はまたそういうのは苦手だと顔を顰めるのでしょうか。



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