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次の出会いは [ 7/13 ]


「見事に、何もないわね」


朝になり、目を覚ました亮と一緒に亮の家へと向かった。

朝食をとりたいという亮の言葉に頷いて冷蔵庫を開けたものの、冷蔵庫の中には調味料程度の物しか入っておらず、冒頭の言葉しか発することができなかった。


「お袋、俺にどう生活させるつもりだったんだ…」
「ここまで空っぽだと清々しいわね。1ヶ月も家をあけることを考えると冷蔵庫の中を腐らせたくないって気持ちは分かるけど。きっと、亮がまともに料理すると思っていなかったのね」
「…なるほど。ってかこれじゃ朝飯食えねえ…!」
「この時間じゃスーパーも開いてないよね」
「…仕方ねえ。そこらへんのファミレスにでも行くか」


亮の言葉に頷いて入ったばかりの家を出る。徒歩5分程の距離のファミレスに入ると流石に客もほとんどいなくて、日当たりの良い席についてそれぞれがモーニングメニューを頼んだ。


「ところでさ、今日どうしてる?俺はこれ食い終わったらそのまま部活行くんだけど」
「ん、買い物にでも行ってくる。食材もいるし、洋服もこれ1着ってわけにはいかないから」
「洋服って、金あんのか?」
「うん、丁度買い物に行く予定だったから、何着か洋服買うくらいは入ってる」
「そっか。じゃあ、安い店集まってるとこの地図書いとくから行ってこいよ」
「ありがとう、助かる」
「ん。…それからこれ」

簡単だけどわかりやすい地図を書いた紙を渡されて頭の中でなんとなく確認していると、チャリ、と音が聞こえて顔を上げる。


「…え?」
「合鍵。ないと困るだろ」


そう言って亮から差し出されたのは、シンプルなキーホルダーのついた鍵だった。


「あ、ありがとう…。でもいいの?」
「何がだよ?」
「いやだって…、…信用しすぎじゃない?」
「あー…、奈々香なら大丈夫な気がするんだよ」


変なことすんなよな、と冗談っぽく笑う亮につられて私も笑みを零した。


「ふふ、恩を仇で返すようなことはしません。…ありがとね」
「っ、おう」
「って、あれ?亮、もうこんな時間!」
「へ?って…やべっ、じゃあ行ってくる!金置いとくから!」
「うん。行ってらっしゃい、頑張ってね!」


手を振って亮を見送ってから、カップに残っていたコーヒーを飲み干して私はレジへと向かった。お金を払って外に出て、亮からもらった地図をもう一度眺めた。


「…よし、行こう」




亮から貰った地図は本当にわかりやすかった。迷うことなくついた目的地では、大きな建物が目に飛び込んできた。


「大きなアウトレットモール。いい買い物ができそう」


入口に設置されていたパンフレットを片手に歩きだす。


「これとこれ…、あとこのスカート買ったら1ヶ月洋服は問題ないでしょ。靴はとりあえず今履いているスニーカーでいいとして…下着は多めに欲しいな。下着売ってるとこって…」
「下着ならあの店がオススメやのう」
「あ、そうですか……って、え?」
「プリッ」


(……ん?)


今なんか変な音が聞こえなかった?っていうか、誰?


「あの……」
「お前さん、見らん制服じゃのう」
「え、ああ。県外の制服なんで…って、そうじゃなくて、どちら様ですか?」
「ただの通りすがりのもんじゃけえ、気にしなさんな。それよりお前さんにはこのピンクがオススメじゃのう、どうじゃ?」
「はあ、いいんじゃないですか」
「つまらんのう。照れるとかしてみたらどうじゃ」
「照れてほしかったんですか?」
「ピヨッ」
「……あの、さっきからなんなんですか?会話にならないんですが」


ところどころで謎の効果音を挟むのはやめてほしい。というより、流されて一緒にショップまで入ってきたけど、私はこの人の隣で下着を買うのかな…。


「下着、選んじゃるけえ」
「…え?」
「今度それつけてデートしたいのう」
「は、あ…?」


呆気にとられているうちに気が付けば男の手には大量の女物の下着。


(……っていうか、男が下着売り場をうろつくのってどうなんだろう。見る限りこの人、制服っぽいから学生だよね…?)


「そんなナンパされたのは初めてです」
「印象に残るじゃろ?」
「そうですね。いきなり隣で下着を選び漁るなんて、一歩間違えなくても変態さんですもんね」
「厳しいのう」
「ナンパなら、名前くらい教えてくれないと成立しませんよ?」
「名前教えた途端、警察に通報されそうじゃけん」


プリッとまた謎の擬音を発した男は、こちらを盗み見るように見上げた。そしてその手には大量の色鮮やかな下着。…奇妙すぎる。


「っ、はは、しませんよそんなこと!下着、そのくらいでいいんで。買ってきますね」
「ここは男を立てて、ナンパした奴に奢らせんしゃい」
「はははっ、もう笑わせないでくださいよ」


思いっきり笑って目を開けると、目の前の男から驚いたように見つめられていた。…ほんと面白いなあ、このお兄さん。


「下着は自分で買うんで、よかったらお昼ご馳走してくれません?お兄さんとお話したいな?」
「っ、……逆ナンしてくれるとはのう」
「はは、純粋にお兄さんと喋ってみたくなっただけですよ」
「下着は奢らんでよかったんかのう?」
「いいですよ。選んでくれてありがとうございます。サイズぴったりなんて、気持ち悪いですね」
「天才じゃけえ」
「なんて無駄な才能」


レジに商品を通してもらいながら会話をしてみると、偶然目が合った店員さんが訝しげな表情でこちらを見ていた。…そうですよね、ランジェリーショップでナンパなんて私も聞いたことないし。

…うん、面白い出会いができた。


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