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信じてくれて [ 6/13 ]


「多分、なんだけどね。私の推測があっていれば、宍戸君もその漫画のキャラクターなんだと思う」
「待って、ついていけねえ。それに多分ってなんだよ」
「だって、私その漫画を読んだことないんだもん」
「はあ!?じゃあなんでわかるんだよ」


宍戸君の指摘は当然だった。


「親友がその漫画の大ファンでね、いつも私の隣でその漫画について話してたの。…面倒だったから聞き流してたんだけど、こんなことになるならちゃんと聞いておけばよかった」
「それならなおさら、わからないだろ?」


そう聞いてきた宍戸君の言葉に、今日一番の苦笑いを見せてから口を開いた。


「その漫画、アニメにもなっていたらしいんだけど」
「おお、すげえじゃん」
「キャラクターが歌ってるCDがあるらしいのね?」
「お…お?」
「親友はそのCDも集めていたし、その曲をカラオケで歌ったりもしてたの」
「……それで?」
「基本はCDも普通サイズのケースなんだけど、何のウケ狙いかレコード盤サイズのケースでCDを出したキャラクターがいてね。普通のCDラグには入らないじゃない?」
「ああ、そうだな」
「それが親友の部屋の棚の目に付くところに飾ってあったの。CDはよく部屋で流れるし、カラオケに行ってもその子が歌う。しかも驚く程変な曲でね?その曲とジャケットの印象だけが頭に残っていたの」


なるほど…、と納得した様子の宍戸君は、すぐに顔を歪めた。


「その曲って…?」
「うん。…タイトルが、」


少し遠慮して小さめな声でタイトルを口にした直後、ネットカフェには盛大な笑い声が響いた。


「ね?記憶に残るでしょう?」
「っ、あー……笑った…っ、だからあの時…、っ、そっか、」
「うん。まあ、それ以外は知らないから、宍戸君がキャラクターだっていうのも推測でしかないんだけど」
「何やってんだ跡部の奴…っ、あーその曲聞いてみてえ…っ」
「…そう言ってくれてるってことは、信じてもらえたって思ってもいいの?」
「っああ、跡部は有名人だから初対面で知っててもおかしくないけどよ、寝起きであんな発言する奴いねえし、何より嘘言ってるようには聞こえないからな」


信じてみてもいいぜ、と笑った宍戸君に思わず目を見開いた。すぐに宍戸君が思い出し笑いを始め、その笑いが治まりそうにはなかったからパソコンに向かうことになったけど。


「何か調べ物でもあんのか?」
「うん、私の世界との比較でもしてみようかなって。見た感じ特殊な世界ってわけでもなさそうだし、地名とか使えるものとかがどこまで一緒なのかも調べておきたいから」
「なるほどなー…」
「変わった食材とかないかなあ…、向こうでは開発されてない調味料とかあったら面白いんだけど。折角なら色々研究して帰りたいし…」


集中して画面に向かっていたために、宍戸君が私の独り言に反応したことに気付かなかった。クリックするためにマウスに伸ばした右手が不意に掴まれ、驚いて顔を上げる。


「なあ、もしかして…料理できたりすんのか?」
「え?…まあ」


宍戸君の真剣な目に思わず口を噤みかけた。曖昧なはずだった私の返事に、宍戸君は目を輝かせた。…え、何?


「なあ!俺の家に来ないか!?」
「…は?」
「今日から1ヶ月、家族が海外旅行行っててさ、食事に困ってたんだよ!!1ヶ月料理作ってくれればその間の住居は保障する!俺以外は家にいないから気を使う必要もないし、必要な時は俺の家の住所を使ってくれて構わない、どうだ?」
「え、どうだって…、私は願ってもないくらいありがたい話だけど、料理だけでそこまでしてもらうのって…」
「俺料理全くできねえんだよ。部活もあんのに毎日コンビニ弁当じゃ身体持たなくて困ってたんだよな。それに、行き場ないって言ってる女放置できねえし」


中学生なのに、というより中学生だからなのか、不用心で無鉄砲な言葉を連ねる宍戸君に無性に安心した。


「そっか…、うん!乗った!1ヶ月よろしくね、亮」


その安心に全て任せてみたい、そう思って笑って同意すると、目の前の彼は大きく目を見開いていた。


「…どうかした?」
「あ、いや、名前…」
「名前?…ああ、だめかな?仲良くしたいって思ったら下の名前で呼んじゃうんだよね。一緒に住むのに宍戸君っていうのも他人行儀かなって…」
「いや、全然いいんだけどよ」
「よかった、私のことも奈々香でいいからね?」
「おう。…よろしくな、奈々香」


二人で顔を見合わせて笑った後、亮は漫画を開いて、私はパソコンで調べ物を続けた。途中でぽつりぽつりと他愛のない会話をするほかは、なんとなく無言で、それを苦に感じることもなかった。

そうして日付が変わる頃、二人とも眠りについていた。



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