プロローグ [ 3/13 ]


「もうかっこよすぎる!やばい!」
「…ふーん」
「…奈々香、聞いてない」
「うん」
「うんって…!もう!」
「…いひゃい…」


放課後の教室。親友と2人。その親友から頬をつままれているこの状況はなんなんだろう。


「奈々香が話聞かないからだよー」
「はいはい。大体、私がその話流すのなんていつものことじゃない」
「そうなんだけどさー…、奈々香にも読んでほしいなっ、テニプリっ!」
「可愛い子ぶってもだーめ。忙しいんだもん。コンクール迫ってるし、店の管理もあるし。…なによりかおり?明日は中間試験だよ?」
「わかってるよー」
「その余裕で学年2位なんだから、たまんないわ」
「学年1位様が何言ってんの?奈々香には敵わないことは証明されたもん」
「私は頑張らなかったらすぐに落ちちゃうわよ」
「頑張らない奈々香なんて、奈々香じゃないでしょ?」


かおりの言葉に、顔を見合わせて笑う。私達2人しか残っていなかった教室には、赤い夕陽が差し込んでいた。


「帰ろっか」
「うん!明日は試験、だし!」
「勉強なんてするつもりないくせによく言うわ」


クスクスと笑いながら静かに教室の扉を閉めた私達は、他愛のない話をしながら帰路についた。


「あ、私今日寄るとこあるんだった」
「付き合おっか?」
「いや、奈々香忙しいんだし。また明日ね」
「ん、ばいばい」


曲がり角でかおりと別れて足を進めた。あと3分程で家につくという距離にまでたどり着いた時だった。


『―――――っ!』
『〜〜〜っ!』


不意に後ろから聞こえた、焦りを交えたような大声に不審に思って振り向いた。

それが私にとって正しい行動だったのかなんて、この瞬間の私にはわからない。


『見つかった!!やれ!!』
「え、は?…んんーーっ!!!」


やられた、そう考えながら、私は意識が遠のいていくのを感じた。

目を閉じる瞬間、最後に見たのは、薬品の染み込んだ黄色いハンカチだった。




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