繋がる推測 [ 9/13 ]
初めて食べさせる相手だから、といつもより気合を入れて作った料理を亮は本当に美味しそうに食べてくれた。
夕飯の片付けを終えて、ソファに座っていた亮に紅茶を淹れて私も隣に腰を掛けた。
「今日どうだった?迷わず行けたか?」
「うん、亮の描いてくれた地図わかりやすかったよ。ありがとう」
購入品などについて暫く雑談した後、ふと記憶に浮かんできたのは今日出会った銀髪だった。
「そういえばね、そのアウトレットモールでナンパされたんだ」
「は……?」
私の言葉に一気に眉間に皺を寄せた亮に苦笑する。そんな顔しないでよ、と声をかけてからもう一度口を開いた。
「あんな変わったナンパ初めてだったなあ」
「変わったナンパ、だあ…?」
「うん、おすすめのランジェリーショップ案内されたの。しかも勝手に下着選び始めるし」
雅治を思い出しながら一通り笑い顔をあげると、目の前には首まで真っ赤にした亮がいた。
「亮?顔真っ赤…」
「し、した、ぎ…って…」
ぽつぽつと言葉を漏らしたかと思うと、大きな手で顔を覆って隠した亮を見て何度か目を瞬かせて、勢いよく立ち上がった。
「やっぱり、それが男子中学生の反応だよね!?」
「……っ、は、あ…!?」
意味がわからないという亮の顔に、ごめんと呟いて笑った。でも…うん、やっぱり雅治は中学生らしくないよ。
「…んで?何もされてないか?」
「何って…?」
「変なこと、とか…」
どんどん声が小さくなっていった亮の言葉に思考を巡らせる。
「えーっと…お店勧められて下着選んでもらって、食事誘ってご飯食べて、お話してお別れ?…うん、変なことはされてないよ」
「待て待て待て!充分おかしい!食事誘ったってなんだよ!?奈々香から!?」
「うん。すっごい面白い人だなって思ったから」
何気なく答えた私の言葉を聞いて、亮は立ち上がって肩を掴んできた。
「わっ、亮?」
「なんっで、そんな危ないことすんだよ!?」
「なんでって…、危なくないって判断したからだけど?人を見る目はあるつもりだよ。亮の時だってそうでしょ?そうじゃなかったら初対面の男の人と個室で泊まるなんてしないよ」
「う…っ、いや、それを言われると言い返せねえんだけどよ。でも最初の2つだけで充分変態じゃねえか…」
「あはは、だよねー?変なイケメン君だった」
「イケメンなのかよ…」
はあ…、と肩から手を離してズルズルと座りこんでいく亮を見て、自分の口元が緩むのがわかる。
「亮?」
「…ん?」
「心配してくれて、ありがと」
へらっと微笑みかけると、一瞬ぽかんとした亮が顔を赤らめて視線を逸らした。心配してくれる人がいるって、嬉しいなあ。
「…それでね、その人と話しててわかったんだけど、その人も漫画のキャラクターみたいなんだ」
「…え?なんで…」
雅治の話を出した本当の目的をようやく言葉にできた。本題はナンパされたことなんかじゃなくて、
「話してて思い出したことがあってね?その漫画、テニス漫画だったと思う」
「テニス…?」
「そう。亮や公園で会った人たちって、氷帝っていう学校のテニス部なんだよね?」
「ああ、それが?」
「今日会った人も、強いテニス部の人みたいなんだよね」
強いテニス部、という言葉に反応したのか、亮の顔つきが真剣になった。
「わざわざ漫画の世界に来たってことは、やっぱりそのキャラクターに出会うことが多いと思うんだよね。そうじゃないとトリップすることに意味がなくなるし。出会った人が強いテニス部ってことはそうとしか思えない」
「なるほど、…で?」
で?とは何に対してなんだろう。そう思いながら首を傾げると、その疑問を感じとってくれたのか亮がもう一度言葉を続けてくれた。
「こっちの世界に詳しくないはずの奈々香が、なんでそいつの学校のテニス部が強いってわかるんだよ?」
「ああ、そういうことか。今日亮たちの学校に勝ったって言ってたからだよ」
「…は?」
「あの黒子の人って、あれだけの目立ち方してるキャラクターなんだからきっと亮たちの学校は強い学校なんだろうなって推測してね?そこに勝ったってことは強いんだろうなって。…違うかな?」
自分の推測での考えをひたすら話し終わって亮の顔を見ると、ひどく不愉快そうな表情をしていた。…私何かまずいこと言ったかな?
「えっと、亮…?」
「…奈々香、お前、誰に会ったんだ…?」
「え?ああ、雅治だよ。仁王雅治。知ってる?」
掴みどころのない銀髪の男を思い出す。アドレスと番号も教えてもらったよー、と呑気に笑っていると、亮の肩が震えているのが目に入った。
「りょ、亮…?」
「…っ、あいつは充分すぎるくらい危ない奴じゃねえか!!!!」
わっ、と叫んだ亮の言葉の意味を理解しようとしたが頭には入ってこなかった。首を傾げる私の耳には、“りっかいが…”とか“あとべの機嫌が…”とかよく理解できない亮の呟きが入ってきていた。
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