山吹 短編
正反対な君と

このクラスには、俺とは正反対の女子がいる。


彼女の名前は芦原葵。何が正反対って、まあ全部なんだけど。

例えて言うなら身長が178cmとでかいくせに地味な俺に対して、彼女は140cmくらいしかないのに誰よりも存在感があって目立っていたりする。

そんな俺らは、ネタとして比較されることは多いが、なにしろ俺が地味すぎてそれ以上関わることもない。…あれだけ比較されれば流石に俺のことは知っているとは思うんだけどな。


「――なみ、南っ!!」
「…え?」
「え?じゃなくて。そこに立たれると前見えない」


不意に声をかけられて振り返るとそこにいたのは芦原だった。


「あ、悪いな」
「ほんとだよー、ただでさえ大きくて自己主張激しいんだからちっちゃい人には遠慮してよねー」


にっと笑って冗談めいて言った芦原の言葉に、俺は目を見開いた。


「え、何さ?」
「あ、いや…。自己主張激しいとか初めて言われたからびっくりして。でかいくせに地味だとか存在感ないとか言われ慣れてるから」


うん、自分で言ってて情けないな。
はは、と笑うと、目の前の芦原はキョトンとしてこちらを見つめていた。


「南存在感ないの?」
「おま、ストレートだな…」


直球な質問に思わず苦笑すると芦原は首を傾げながら口を開いた。


「南目立つじゃん」
「は?いやいやないだろ」
「そりゃ派手じゃないけどさー?私テニス部が固まってたら一番最初に南見つけるよ?」
「……は?」


芦原の言葉に再び驚いて固まっていると、そんな俺を置いて芦原はうーん、と唸りながら考えこんでいた。


「…ありえねえだろ?テニス部って、千石やら亜久津やらいるんだぜ?」
「えー?でも一番最初に目に入ってくるんだけどなあ?」
「俺が言うのもなんだけど、芦原おかしいって」


あんなに良い意味でも悪い意味でも目立つ奴らがいるのに、俺が先なんて普通ありえないだろ。


「なんでだろ?だって南もテニスすごいし、身長だって高いし、普通に格好良いし、優しいし、いろいろ問題児の多いテニス部で苦労してるはずなのに楽しそうにしてるの印象的だし…」


…おお、なんだこの褒め殺しみたいな状況は。


「ああ、わかった」
「…?何がだ?」


突然一人納得しはじめた芦原に疑問を投げかけると、にっこりと笑いかけられた。


「私、南のことが好きなんだね」


自分が固まったのがわかる。すっきりしたー、と笑う芦原に呆然としていると芦原がこちらに向き直った。


「他の子に取られちゃうのも嫌だし、南は私にだけ目立っててくれればいいんだよ」


好きって分かったからにはこれからアタックするから覚悟しといてねー!と笑いながら去って行った芦原の背中を固まったまま見送った。


(…あの告白は、ずるいだろ)


この顔の熱が引いたら、俺も好きみたいだと言いに行こう。

正反対の彼女に、これからも一番に見つけてもらえる存在になりたい。