「んで?」 「は?」 「苗字…。おまんは柳生だけに暴露させて自分は言わんで平気なんか?酷い奴じゃ」 「どの口が言うのかな?え?」
飄々と言い放った仁王の頬を思いっきり抓る。柳生君から止められてやめたけど。
「仁王君、いい加減にしたまえ!!苗字さん、気になさらないでくださいね」 「あ、うん…」 「なんじゃ、気になるくせに」 「わ、私は」 「苗字じゃってさっきの暴露嬉しかったんじゃろ?お前さんが言えば柳生も同じように嬉しく思うんじゃよ?」
…仁王は本当にずるい。どうせ私に自信がないことなんてお見通しなんだ。
素直に好きなんて、されないと分かっていても拒絶される気がして簡単に言えないことも。
「苗字さん、あの…」 「…風紀検査」 「え…?」
仁王の悪戯がチャンスなら、私は活かしてみせる。
「私、見た目こんなんだから。頭ごなしに怒られたり、初めて会う子には怖がられたりするのが普通だったの」 「あの…?」 「でも、あの日は違った」
『苗字名前さん…ですか』 『うん』 『これはまた、大胆な違反ですね』
(ああもう、面倒だなあ。初めて検査受ける人かあ)
『勿体ないですね』 『え?』 『制服に皺一つないんですから、とても丁寧な方なんでしょうね』
驚いて顔をあげた先には、困ったように笑う男の子の姿。
『それだけ着崩しているのに汚く見えないのですから、規則通りに着ていただければもっと素敵に着こなされると思いますよ』
怒るでも呆れるでも怖がるでもなく、子供を諭すかのように眉尻を下げて笑うその表情が、何故かどうしようもなく頭から消えなかった。
「…そんな風に褒められながら注意されるなんて、されたことなくて。なんだかむず痒くて、苦手だなって思ったんだけど」 「……」 「何度風紀検査受けても、いつも私を見る度に同じように困った顔して笑って、その顔に安心してる自分に気付いて。…それと同時に、心から嬉しく思った笑顔とか見たいなって、思い始めてて…」
やばい、私絶対顔赤い。なんで柳生君も仁王も無言なの?恥ずかしすぎて顔見れないんだけど。
「…気が付いたら、柳生君のことが、好きなんだなって思ってました。…いつからとかはわかんないけど。…〜っ、ああもう、恥ずかしすぎる!!ごめん、先に戻る」
自棄になってその場から立ち去った。 柳生君がどんな顔してるかなんて、見る余裕はなかった。
――――――――
「…柳生、顔真っ赤じゃよ」 「〜〜っ」 「おまんが『苗字さんは私のことをどう思っていらっしゃるんでしょうか…』なんて言うから聞き出したんじゃがのう」 「…あんな些細な言葉を、拾われるなんて思わないじゃないですか」 「親友の些細な本音のために一肌脱いじゃった俺に感謝の言葉もないんか?」
顔のほてりをごまかすように、仁王君に溜め息をつく。
「…感謝してますよ、仁王君。どうしようもなく、幸せですから」
早く放課後にならないでしょうか。会った瞬間に、あの告白した時以上に、心の中に溜まる愛しく想う気持ちをあなたに伝えたい。
緩む頬を隠すことは、できそうにないです。
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