1万打 | ナノ








調理が終了し、配膳も終わり席についた。


「今日は和食だからお箸だよね…。フォークもらってくる?」
「あ、大丈夫だから。ゆっくりなら食べれるし、練習もしないとな?」


並べられた食器を見つめて発した名前の言葉に苦笑しながら返す。


(練習しとかないと、また名前が同じようなことしそうだしな…)


「ジャッカル君がお箸苦手とか知らなかった…。器用そうなイメージあったからかな?」
「あー…、昼飯もパンだったりフォーク使ってたりするからなあ。つい箸使うの避けてるんだよな」


昼休みの光景をぼんやり思い出しながら笑う。…いい加減日本にいるなら箸使えねえとな。


「名前は箸使い綺麗だよな。食い方が綺麗って前も思ったし」
「食べ方だけは両親とも厳しかったんだもん。普段はすっごい甘いんだけどね」


苦笑いしながら話す名前の手元を見ながら、それとなく真似して箸を動かした。


「あー、やっぱ上手くいかないな」
「中指の位置ずらすと持ちやすいよ?」
「…っと、こうか?」
「えっと…、この辺かな」
「〜っ!!」


口での説明が難しかったんだろう。多分、無意識に名前は自分の手を俺の手に添えてきた。


「これで動かせる?」
「え!?あ、ああ…」


先程より大分持ちやすくなった箸を動かす。


(なんかいろいろ緊張して逆に動かせねえんだけど…)


名前が無意識だから余計に緊張する。結構恥ずかしくなる行動してるって気付いたらどうするんだろうか…。


「ジャッカル君?」
「え?」
「あはは、本当にお箸苦手なんだね。ほっぺ、ついてるよ?」
「え…っ、」


今度こそ自分が真っ赤になっている気がする。

名前の言葉に反応する前に、クスクスと笑いながら伸びてきた名前の指は、俺の頬を掠めた後にそのまま名前の口元へ移動した。


『〜っ、名前!!今日大胆すぎ!!』
「…え?」
『黙って見守ろうかと思ったけど、流石に見てるこっちが恥ずかしくなる!!』
『ジャッカル顔赤くして固まってるから、その辺にしてあげて!!』


見守るってなんだよとかツッコミどころはいっぱいだったが、それどころじゃなかった。


『あーんに始まり、手を添えてあげるとか、口元についたご飯食べるとか!!』
『イチャついてるようにしか見えないって…』
「え?…え、あ…っ!!ジャッカル君、ごめんね!?違うの、何も考えてなくて…って、考えてないからダメなんだよね!?えっと、えっと…っ」


耳まで真っ赤にさせた名前の姿に、俺まで恥ずかしくなってどうしようもない空間をごまかすために再び食事に向き直った。



「…ほんと、ごめんね?」


食器を片付けながら申し訳なさそうに謝ってきた名前に、思わず苦笑した。


「俺が迷惑かけただけだって。名前が気にすることないだろ?」
「で、でも…」
「あー…、じゃあさ。次の調理実習の時に俺が迷惑かけないで済むように、今度箸の使い方教えてくれよ。な?」


俺の言葉に照れたように笑いながら頷いた名前に俺も笑った。








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