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「あ、スポーツショップ寄っていいか?」
「うんっ」


ファミレスで紗弥から言われた言葉に思わず固まってしまった一言を思い出せば今でも顔が熱くなる。


(俺は思ったことを言っただけだったんだが、言われて意識すると恥ずかしいな…)


俺の場合、お世辞で言われただけだろうが、それにしても恥ずかしくなる。


「テニス用品?」
「ああ。ここ品揃えいいんだよな」


そんな昼食を終え、買い物に出てきた。


(本当に俺の買い物に付き合ってもらうだけになるな…)


楽しそうに目を輝かせているところを見ると、今のところはそれで問題はなさそうだが。


「テニスの道具っていっぱいあるんだね」
「まあな。ラケットとボールさえあればどうにかなるスポーツではあるけど、やっぱりグリップテープひとつで全然違うしな」
「グリップテープ…?」
「こういうやつ。ラケットの持ち手の部分に巻くんだよ」


ひとつ手に取って説明すると、紗弥は興味深そうに話を聞いてくれた。


(自分の好きなものの話を真剣に聞いてくれるのって嬉しいよな…)


微笑ましく感じながら売り場を眺めていると、ひとつ気になるグリップテープを見つけた。


(うわ、高えな……)


立海テニス部の練習量は全国一だと言っても過言ではない。引退した身でも、部活に顔を出している限りは同じ練習を消化するわけだ。グリップテープがダメになる頻度も凄まじいもので。


(いいやつ使ってると破産するよな…)


結局は小遣いで買える範囲のものを買うため、いいやつが買えるわけでもない。他の場面でも出費があるため、グリップテープだけにお金をかけるわけにはいかない。


(でもこのメーカーの新作か…。小遣い入ったら買ってみるかな…)


頭の中で計算をしながら溜め息をつき、興味津々に売り場を歩く紗弥の元へと寄っていった。



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