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待ち合わせした時間は11時。待ち合わせ場所は駅前。
(あってる、よなあ…?)
ただいまの時刻、11時30分。
紗弥が待ち合わせに遅れるような性格だとは思わない。そうなれば何かあったのかと心配するのが普通で。
(連絡、とれないしなあ)
今まで家族と連絡をとれればよかった紗弥は、携帯を持っていない。
紗弥の両親は持たせようとしていたが、紗弥が必要ないと断っていたらしい。
(…どうするかな)
そう思っていた時だった。
「…ジャッ、カル、君…」
不意に呼ばれた声に振り向いて思わず固まった。
「遅れて、ごめんなさ…っ」
短い白のニットのワンピースに、黒のブーツを合わせたその格好は、シンプルなのにとても映えていて。
軽く巻いたのであろう長い髪はふわふわと揺れて、少しだけ纏った化粧により普段から大きな目が更に強調されていた。おそらく走ってきたせいだと思われる微かに赤くなった頬がどうしようもなく綺麗だった。
周りの空気が止まったのがわかる。こんなにも人の多い駅前で、ざわめきひとつ聞こえないくらい全員が息を呑んで紗弥に魅入っていた。
(私服って、こんなにも衝撃あるもんだったか…?)
「ジャッカル君?」
「…っあ、いや!ぜ、全然大丈夫だ。何かあったのか?」
「…ジャッカル君と遊びに行くって言ったら父が離してくれなくて。母は面白がって私で遊んじゃうし」
苦笑する紗弥に、なるほどと理解する。多分、この髪も化粧も、紗弥のお母さんが楽しんで施したものだろう。そして、大事な娘がこんな格好で男と出かけるなんて言われれば引き止めたくもなるよなあ。
「…本当に大事にされてるんだな」
「え?」
「あ、いや。こっちの話だ。…今日どこ行くんだ?」
何気なく問い掛けた質問に、紗弥がピクリと肩を揺らした。
「あ、えっと…あのね?今日家にお客さんくるから家にいれなくて、それでどこか行かなくちゃいけなかったけど、全然思い付かなくて。それで、その…考えなしで誘っちゃったの」
「あ、そうだったのか」
「それでね?私、友達と買い物とかしたことないから…よかったら、ジャッカル君が普段行くところに連れてってもらえればいいなって…」
申し訳なさそうに話す紗弥に、別に全然構わないのにと思いながら話を聞く。構わない、のだが…。
「女物の買い物の場所とか全然わかんねえぞ?」
「あ、全然大丈夫!ジャッカル君のこと知れたら、それだけで楽しいから」
ふわ、と笑って言われた言葉に胸が詰まった。
(そんなこと言われて、嬉しくない奴いないよな…)
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