07


「何も買わなくてよかったの?」
「あー…、今日は目的があったわけじゃねえし、衝動買いしちゃうとな」
「そっか…」


スポーツショップを後にして、次に向かっているのはいつも行くメンズショップだ。


「お、着いたぞ」
「うわあ…、私メンズショップって初めて入ったかも…!」
「そうなのか?」
「うん!…コーディネートして遊んでもいい?」


目を輝かせて問い掛けられた言葉によくわからないまま頷いた。



「ジャッカル君、次これ着てみてくれる?」


あれから30分経って、俺は試着室に入りっぱなしだ。

紗弥が次々と笑顔で持ってくる洋服は、どれもセンス良くコーディネートされている。


(遊ぶってこういうことか…)


思わず苦笑していると、目があった店員がこちらに向かってきた。


『よく似合っていらっしゃいますね』
「あ、ありがとうございます」
「あ…、ごめんなさい…試着室占領しちゃって…」


紗弥が慌てて頭を下げると、店員は笑顔で首を振った。


『今日はお客さん少ないから気にしないでください。お二人が楽しそうでずっと見ていたんです』
「あはは…」
『彼氏さんも格好いいけど…、彼女さん本当にお綺麗ですね!!』
「「彼氏/彼女!?」」


思わぬ店員の発言に2人揃って声を出して固まった。…紗弥顔真っ赤にしてるし…。


『違うんですか?すっごくお似合いで幸せそうでしたから』


にこ、と笑って店の奥に戻っていった店員を呆然と見送り、しばらくそのまま固まっていた。

…そのままいなくなるのは止めてくれ……。


「…びっくり、したね」
「ああ…」


ようやく出た紗弥の声で我に返り、俺も返事をした。


「あ、はは…、彼女かあ…」


紗弥の彼氏なんて、誰がどう見たって俺なんかがなれる存在じゃないだろう。
紗弥を褒めるついでかはわからないけど、反応に困る発言は止めてほしかった。


(紗弥も困ってるだろ…)


そんなことを考えて溜め息をつきそうになった瞬間だった。


クイッ


不意に袖を引っ張られて不思議に思って下を向くと、何故か照れ臭そうに笑う紗弥がいた。


「…彼氏彼女じゃないけど、店員さんの言うこと間違ってないよね」
「ん?どういうことだ?」


紗弥の言葉の意味がわからず聞き返す。すると、返ってきたのは極上の笑顔だった。


「幸せそうって言ってもらったやつ。私今、ジャッカル君と一緒ですっごい幸せだよ!」


…本当に、今日の紗弥は反則だと思う。


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