立海 短編
いたずらなプレゼント *誕*

「比呂士ーっ、誕生日おめでとー!今日放課後部活ないから今プレゼント渡しとくぜぃ」
「丸井君、ありがとうございます」


朝練が終わった部室で、皆さんから誕生日プレゼントをいただきました。
こうやって祝っていただけるというのは素直に嬉しいですね。


「仁王先輩はプレゼントとかないんスか?」
「ん?これぜよ」


そう言って差し出されたのは、試合で使用するウィッグ。もちろん、仁王君の髪のもの。


「…どういうことですか?」
「今日1日俺の姿で過ごしんしゃい。それがプレゼントぜよ」
「はあ…?」


意味がわからないまま戸惑っていると、あっというまに仁王の変装をさせられていました。


「ん、これでええ。それじゃ、今日1日ヘマするんじゃなかよ」


自分は私の姿になってふらりと手を振っていなくなった仁王君に首を傾げながら、「んじゃ行こうぜぃ」と歩きだした丸井君と共にB組へと向かいました。


(一体どういうことでしょう?今日私と入れ代わったところで、お祝いの言葉をかけられるという仁王君にとって面倒なことがあるだけだと思うのですが…)


「んじゃ今から席替えするぞー」


仁王君の行動に首を傾げていると、B組の担任の声が響きました。

言われた通りにくじを引き、指定された席に移動すると、仁王君の前の席には丸井君の姿が。
ふと隣に誰かが座った気配を感じ顔をあげた瞬間、呼吸が止まるのを感じました。


(芦原、さん…)


「お、隣仁王?よろしくー」
「お、おう」


芦原葵さん。
私が彼女を思っていることを知っているのは仁王君だけが知っていることで。

いつも仁王君とともに風紀検査での指導常連となっている彼女の外見は、いわゆる不良そのもの。
初めは不快感しかなかったにも関わらず、彼女に惹かれたのは彼女の性格の良さにありました。

外見に伴わず恐れられることなく誰からも好かれ、誰に対しても気遣いを忘れない。
校内の中だけではなく、動物や子供、お年寄りを助ける姿を何度も目にしてきました。

そして何より、人懐こい笑顔に惹かれた、のですが。


(彼女は、多分私が苦手なんですよね…)


自由奔放な彼女とは違い、堅苦しいと言われることが多い私。
風紀検査で指導する時には、私が好きな笑顔ではなく、引き攣ったような苦笑いを浮かべるだけ。


(これから毎日、仁王君はこんなに彼女の近くで、警戒心のない笑顔を見られるんですね)


つい仁王君に嫉妬してしまう私は、醜いのでしょうか?


「…う、…仁王!」
「え!?…あ、なんじゃ?」
「何ぼーっとしてんのさ?それより、あれどうなりそう?」
「……あれ?」
「とぼけんなっつの。…柳生君を呼び出してってやつ」


(…………は?)


「あー緊張する!絶対私みたいなチャラいの嫌いだと思うけどさ?誕生日くらいお祝い言っても許されるよね!?それも嫌とか言われたら私立ち直れないんだけど…」
「……だ、大丈夫なんじゃなか?」
「ほんと?信じるからね?…流石に告白はできないけど、おめでとうくらいは言いたいし…!っと、チャイム鳴った。…じゃあ仁王、放課後よろしく!」


立ち上がって教室を出て行った彼女を呆然と見送り、徐々に顔に熱が集まってくるのがわかり、思わず顔を伏せました。

ポケットからの振動にゆっくりと携帯を取り出して画面を開くと一通のメール。


【いいプレゼントやったじゃろ?】


…仁王君、一生あなたに敵う気がしませんよ。